何度も、何度も、着氷のイメージを体に刷り込んでいった。

 そして、本番。

 逆転への望みをつなぐ4回転ループに成功。着氷に、約1万8千の観衆が一斉に沸き立った。声援が追い風になる。続く4回転サルコーが乱れたが、こらえ、倒れない。4回転トーループ−3回転半(トリプルアクセル)も世界で初めて成功。演技終了とともに右拳を握り、自己最高得点をたたき出した。

 だが、直後にチェンがほぼ完璧な演技を披露し、羽生の猛追もむなしく、差はむしろ広がった。22・45点差。

「(SPとフリー)両方ノーミスでも、(チェンには)ぎりぎりで勝てなかった」

 底力は示したが、完敗に違いなかった。敗れることの意味を、羽生はこんな言葉で表現する。

「自分にとっては負けは、『死』も同然」

 史上初、合計300点を超えての黒星だった。

「今の自分は、(今までで)一番強い状態」

 そう感じていたからこそ、悔しさは一層にじんだ。

「本当に、実力不足だなというのを改めて痛感した」

 ただ、敗北のリンクで得たものは小さくない。

 昨季は平昌五輪で66年ぶりとなる2連覇を達成したことで、今季はこう語っていた。

「結構、フワフワしていたんですよね。目的がきっちり定まっていなかった感じがしていました。『何かやらなきゃいけないんだな』って思いながらスケートをやっていた」

 開幕前の8月には、こんな言葉も口にした。

「『結果を取らなくては』っていうプレッシャーがすごくあったのが、今は外れていて。(今後は)自分のために滑ってもいいのかな」

 だが、そんな意識は一変したと言っていい。

「自分の原点が、このシーズンを通してやっと見えました。やっぱり、スポーツって楽しいなって。強い相手を見た時に、沸き立つような、ゾワッとするような感覚をもっと味わいつつ、そのうえで勝ちたいなって」

 世界選手権を終え、「勝つことが、自分のためになる」と言い切った。

 成長の青写真は、すでに頭の中にある。その一端を明かしたのは、24日のエキシビション前の表彰式だった。

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