「インターネット時代で価値観が多様化する中、誰もが知っていることは極めて少なくなっている。その中で、元号は最後の“共通項”かもしれない。代替わりを知らない日本人は恐らくいない。改元は共通の話題として盛り上がりやすい」

 一方で今の若い世代は元号を使う機会が極端に減り、「リスペクト」感は希薄になっている。

「そのため、気軽にイベントに参加しやすく、SNSというツールを持っている分、一人一人が発信もできます」(原田さん)

 元号をめぐる動きを研究する、東洋大学研究助手で『「元号」と戦後日本』(青土社)などの著書がある鈴木洋仁(ひろひと)さん(社会学)も言う。

「日本人が元号になじみがなくなったことが最大の要因です」 

その結果、元号の(1)イベント化(2)カジュアル化(3)クール化が起きたと見る。新元号予想などは(1)にあたる。(2)は気楽に元号について口にできるようになったこと。(3)は平成世代が「元号」の存在を、スタイリッシュで格好いいものとして“再発見”したからだと語る。

「しかも生前退位は現代の日本人にとって初の経験。関心の高さは世代を問わず老若男女に表れています」(鈴木さん)

「最初は不謹慎だと批判されるのではないかと心配もしました」

 と振り返るのは、新元号予想の懸賞クイズを実施した「和泉屋」(埼玉県朝霞市)の社長、栗原周平さん(48)だ。ビンテージワインなどを扱う3代目。クイズは昨年6月、ホームページで告知し、予想を的中させた応募者から抽選で1人に平成元(1989)年産の大吟醸酒「歳月」(500ミリリットル)などをプレゼントするというものだ(3月31日23時59分締め切り)。スタート当初に懸念された苦情もいまのところなく、これまで約7200件もの応募があったという。

天皇陛下の退位と新天皇の即位が、純粋な慶事として受け止められているのだと実感しました」(栗原さん)

 現状の予想のランキング1位は248票で「安永」、次いで「安久」(228票)、「永和」(104票)、「安始」(101票)と続く(20日現在)。「安」を使った予想が多いのは、安らかであってほしいという人々の思いが込められているのではないかと栗原さんは感じている。(編集部・野村昌二)

AERA 2019年4月1日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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