小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
薬物依存からの回復を支援する民間施設では、薬物を断つ心構えなどが書かれた本の輪読も (c)朝日新聞社
薬物依存からの回復を支援する民間施設では、薬物を断つ心構えなどが書かれた本の輪読も (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 ピエール瀧さんの話になると「昔は有名人がクスリで逮捕されても世間はもっとおおらかだった」「勝新太郎のパンツの話、懐かしいなあ」という人がいます。でも、今も昔も、変わっていないと思うのです。

 薬物スキャンダルが大々的に報道されても、依存症の人を回復プログラムにつなげることが重要だという認識はなかなか広まりません。ヤバい趣味にハマるのは特別に心が弱い人、素行が悪い人で、自分とは関係ないと思いがちです。

 でも誰でも依存症になり得るんですよね。薬物が身近にあるのか、それともアルコールなのかギャンブルなのか、セックスや買い物なのか、対象は違っても、しんどさから逃れたいときにふとしたことでやめられなくなり、体を壊したり生活が破綻するまで続けてしまう。痴漢行為も性欲が原因とは限らず、仕事などで抑圧を抱えた人が陥る一種の依存症だといいます。

 私はかつて食べ吐き依存症だったので、やめたいのにやめられないしんどさには覚えがあります。10代から30歳まで、大嫌いな自分を忘れるために大量の食べ物を買い込み、苦しくなるまで食べては吐き戻すのを、日に何度も繰り返していました。食べている時は無心になれるし、吐く時にはしんどさも一緒に出て行く気がしたのです。いつも体調が悪く、食べ方がおかしいことやトイレで吐いていることを周囲の人に気取られないかとビクビクしていました。そんな自分が恥ずかしくて、一人の部屋で、消えてしまいたいと思いながら食べ続けていました。それが摂食障害という病気だと知った時には、自分だけじゃなかったんだ! と救われた思いでした。

 医師、カウンセラー、同じ悩みを持つ仲間など、その時々でいろんな支援に繋がれたことが、私をこの世に繋ぎ止めてくれました。依存症は身近な存在です。やめたいのにやめられず自分を恥じている人に、それは病気だから治療できる、良くなる方法はあるよ、と示してあげることはとても大切です。どうか理解が広がりますように。

AERA 2019年4月1日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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