そもそもクリミアは18世紀からロシアの領土であり、第2次世界大戦後もそうでしたが、1954年に時のソ連指導部がウクライナに編入させました。その理由と背景はまだ全て解明されたわけではありませんが、今回の再統合で、クリミアは祖国のロシアに戻ったという言い方のほうが正しいと思います。

──制裁に不満があるのですね。

 西側諸国のクリミア住民への制裁は無責任極まりないと思います。EUはクリミア住民にビザを発給しない。これはナチスドイツ以来初めての、一定の地域、特定の民族を持つ地域に対しての措置であり、民主主義と真っ向から反する極めて懸念すべき動きです。

──各国がそのような対応をとるには理由があるのでは。

 いま、国際関係で二つの傾向がぶつかっています。一つは、一国だけの指示で動く国際機構ではなく、同等で内政干渉せずにコンセンサスで決定される多極的機構です。BRICSや上海協力機構、ユーラシア経済連合のような新しい政治、経済、軍事的な影響を持つ主体が登場し、ロシアや中国、インド、ブラジル、南アフリカなどが積極的な役割を果たし始めています。

 一方で、従来型の国際関係における支配の存続を求める西側諸国はそれに猛反発し、NATO(北大西洋条約機構)はロシアに圧力をかけ続けている。そういう流れの中でロシアとウクライナを分離させようという政策がずっと前から続き、その頂点となったのが5年前のキエフでの軍事クーデターなのです。

──現在のクリミアはどのような状況ですか。

 ウクライナ統治下の23年間、クリミアは経済、社会福祉、インフラ整備がないがしろにされ、基幹産業の観光業も疲弊していた。今はウクライナに切られたライフラインや貿易ルートを回復し、社会、経済の復興も順調に推移しています。ウクライナ語だけに制限されていた公用語にロシア語、クリミア・タタール語も加え、独特な民族文化を守る様々な措置が取られています。日本のみなさんはぜひ一度、クリミアを訪れてご自分の目で確かめてください。

(編集部・大平誠)

※AERA 2019年4月1日号より抜粋