この国産チーズブームを支えるのが、冒頭のようなチーズ工房だ。小規模な施設で丁寧に手作りした、新鮮でおいしいチーズを消費者に届けている。

 同協会が2年に1度開催する「ジャパンチーズアワード」にも、そんな工房が作ったチーズがたくさん出品される。昨年10月の第3回には、全国の81の工房が作った280種類以上のチーズが並んだ。来場した東京都在住の50代の女性は言う。

「ワインとチーズの勉強をする中で、日本のナチュラルチーズはレベルが高いと思うようになった。クセのない優しい味で、日本の風土に合っている」

 このアワードの「青カビ部門」で受賞したのは、北海道のニセコチーズ工房が手がけるブルーチーズの「二世古 空」だ。形、外見、生地、におい、味などの審査項目すべてで最高得点だった。全国に卸売りをしているが、人気で品切れになることが多い品だ。受賞のポイントを吉安さんはこう話す。

「青カビのピリッとした刺激は穏やかでありながら、青カビが醸し出す特有の風味がある。長い熟成によって生み出される風味と、繊細なうま味も同時に味わえ、熟成の良さも堪能できるため、非常にバランスがいい」

 開発したチーズ職人の近藤裕志さん(39)は、海外のブルーチーズは塩気が強く、青かびのクセがあるものが多いと感じたため、うま味を消さない味へと改良を続けた。

 日本のチーズがおいしいと言われ始めたのはここ数年だと近藤さんは言う。独自のチーズを作ろうとする意欲的な若手の生産者が増えたことも関係あるだろうと考える。チーズのイベントなどを通して生産者同士で知り合いになり、チーズ作りでの悩みや工夫などの情報交換をするつながりが生まれている。

「楽しくやろうという気持ちを大切にしています。国内の生産者同士で技術を高め合い、世界で賞を取りたい」(近藤さん)

 チーズというと、酪農が盛んな北海道のイメージがあるが、沖縄県からも出品していた。パン屋に併設する宮古島チーズ工房のモッツァレラチーズだ。

 山羊畜産がさかんな地域。牛と山羊の乳で作った「MeMe」は看板商品の一つだ。固まる速度が異なる二つの乳を合わせるのは困難と言われる中、3年以上かけて開発された。

 オーナーの冨田常子さん(61)は東京から移住。元々山羊チーズが好きだったと話す。

「牛乳のチーズより軽く、くちどけがいい。マッシュルームのような香りが特徴的です」

 淡泊な味のモッツァレラチーズが、山羊の乳を入れると変化するという。

 前出の吉安さんは、ナチュラルチーズブームはこれからも続くとみる。EUとのEPA交渉の大枠合意で、関税水準が今後下がることが見込まれ、輸入品が今までよりも安く買えるようになるとみられるからだ。これは「国産」にとって不利では?

「目と舌の肥えた消費者が増えることは、国内の作り手にとっても追い風。いい循環を期待します」(吉安さん)

(ライター・小野ヒデコ)

AERA 2019年3月25日号