稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
無料だからと大して吟味をせずボタンを押した。だから覚えてもいないという悪循環(写真:本人提供)
無料だからと大して吟味をせずボタンを押した。だから覚えてもいないという悪循環(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【この記事の写真の続きはこちら】

*  *  *

 只今確定申告に向け追い込み中。日頃目を背けがちな「収入と支出」(=浮世の現実)を直視する季節です。しかしキャッシュレスは便利とかいうが、領収書集めに四苦八苦してるのは私だけ? 出して欲しけりゃ有料ってところも。理屈がわからず呆然と立ち尽くす昭和のおばさん。

 格闘する中で、さらに驚愕の事実が判明したのでした。

 カードの支払い明細をチェックしていると、見覚えのない会社名が毎月出てくる。2千円程度だが何を買ったのやら全く思い出せず、ワシもボケたと思いつつ会社名を検索するとビデオレンタルの会社です。ビデオなんて借りたことない。必死に記憶をたどると、むかし仕事がらみでどうしても見たい映画があり、検索したらこの会社に行き着いたような。で、期間限定の無料サービスがあるというので「ラッキー」と思って申し込んだような……。

 はい、世の仕組みのわかった方にはアホと思われることでしょう。私の頭の中には、無料サービス期間が終われば自動的に有料サービスへ移るという現代の「常識」が抜け落ちていたのです。故に、同様に無料お試しで申し込んだ請求書発行サービスが有料になっていたことも当然見逃しており、数通の請求書のため8千円の手数料を払っていたバカすぎる事実も判明!

 まさに自業自得です。が、恥を忍んで書いたのは、私より上世代の方は同様の無駄金を払っているやもしれぬと思ったから。モノと違ってサービスのお金はイメージしづらく管理も甘くなりがちです。キャッシュレスとなればなおさら。まして無料となれば安易に申し込んじゃうし、年をとるにつれ、何のサービスを買ったか覚えているだけでも大ごとになる。

 しかし今回のことは貴重な教訓でした。何より無料サービスに手を出してはいけなかった。何かを得ておきながら無料なんてことあるわけないし、またあってはいけないと思ってきたし書いてもきたのです。なのになお人様から何かをかすめ取ろうとした我が浅ましさを深く恥じ入る。

AERA 2019年3月18日号

著者プロフィールを見る
稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

稲垣えみ子の記事一覧はこちら