AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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2011年、7月22日、ノルウェーで起きた連続テロ事件。極右思想の単独犯により、ウトヤ島では若者たちが銃撃され、69人の命が奪われた。戦場カメラマンでもあるエリック・ポッペ監督(58)は、島で72分間続いた惨劇をワンカットで映像化した。
「私は世界的にヘイトスピーチが横行する現状に、いままでにないほどの危機感を覚えています。この犯人もそうした言葉に先導され、使命感に燃えて凶悪な犯行に及んだ。我々はそれをどう防ぐべきかを考えなければならない」
そのために「観客を挑発する」手法を選んだという。観客は逃げ惑う少年少女たちと恐怖を体感することになる。
「小さな島で逃げる場所もなく、助けもこない。被害者のリアルな恐怖を感じることで、本気で『いまの状況をどうしたらいいのか』を考えてもらうことができると思った」
制作には生存者や遺族の全面的なサポートがあった。
「話したくない、という人はいなかった。彼らはこの事件を風化させてはならないと願い、『映画を作ってほしい』と言ってくれたんだ。その思いに応えるため、尊厳を持って描くことを常に意識した。本番で初めて銃声を響かせたとき、俳優もスタッフもショックを受けていた。あれには神経をやられてしまう。現場に精神科医チームを待機させ、ケアには細心の注意を払った」
映画制作の合間に、いまも紛争地帯で取材を続けている。
「コンゴ、アフガニスタン東部、タリバーン政権下のパキスタン北部──私は難民の中に入り込んで、そこで起こることをなめるように撮り続ける。それこそが真実を描くことになると思うから。でもテレビ局から『強烈すぎる。カットしてくれ』と言われて、よく口論になるんだ(笑)。そうした思いが、映画に転化されているかもしれない」