最も大変なのは、時間との戦いという。猶予のない注文が多く、直前の変更もあり、納期がタイトになりがちだ。今回の胸飾りのような、同じサイズできめ細かな編み目の飾りを量産する作業は手間がかかり、徹夜に近い日が続いた。

 作業には集中力と時間を要するため、厳しい納期の場合は、やむなく断るケースもある。
「某大物俳優さんの衣装だったんだよ、と後から教えられ、うわー残念!なんてこともありますが、しょうがないですね」

 幼い時から筆箱や巾着袋など、なんでも自分で作るのが大好きだったというベッソンさん。日本では1990年代からPUFFYや松本人志さんらタレントの広告用のニット衣装を手がけ、01年からは英国で地元デザイナーのサンプルを製作したり、ファッションショーに参加したりしている。

 映画の衣装に携わったのは、豪華キャストで話題となった17年公開の「オリエント急行殺人事件」から。この作品の衣装デザインもバーンさんが担当で、再びのチーム入りは「人との出会いと与えられる機会を大切にしている」ことが生きた。

「若い時は自分のデザインでものを作りたかったけれど、人のビジョンを具現化することは誰もが出来るわけではないとわかったいま、毎回ベストを尽くし、クライアントが『これだ!』というものを提供していきたい」

(在英ライター・稲村美紀)

AERA 2019年3月18日号