「岡田長栄堂」の「しょうゆシュークリーム」も小豆島の名産品、醤油のめぐみを受けた逸品。クリームに使われたほのかな醤油の香りが、心地よく鼻に抜ける。一方、新食感に驚いたのは、同じ小豆島にある「なかぶ庵」の「生そうめん」だ。

 干さないそうめんを、そのままゆでていただく生タイプ。プリプリ、もちもちの食感で、噛みしめると口の中に小麦粉の香りが広がる。手延べそうめんで知られる中武商店のご主人が10年かけて考案。クール便の通販もあるが、できたては島で。

 芸術祭の島巡りの起点となることが多い高松にも、知る人ぞ知るご当地グルメがあった。「あんもち雑煮」だ。地元の人たちがお正月に食べる、あんこ入りの丸が入ったお雑煮のことを言う。香川県にはすでに、讃岐うどんや骨つき鶏という超有名グルメがあるが、こちらそれに続く第三の香川グルメとの呼び名も高い。

 その甘じょっぱの「あんもち雑煮」が1年中食べられる高松の「甘味茶屋 ぶどうの木」で実食させてもらった。白味噌仕立ての汁はあっさりしていて、甘いあんことは意外に好相性。地元の人や観光客で賑わう店内を見回すと、あんもち雑煮の注文率が高い。

 タコ漁が盛んな瀬戸内海では、タコが入った炊き込みごはんの「たこ飯」が名物という島も少なくない。男木島では、ご主人がタコ漁の漁師という漁師宿「民宿さくら」のたこ飯が有名だ。ここはあまり多くない男木島の宿のひとつで、芸術祭での作品制作のために、長期宿泊するアーティストも多い。食堂に並べられたタコ壺には、会田誠らのサインも見える。

 男木島のめぐみをたっぷり味わえる極上の夕食でも知られるが、やはりたこ飯は出色だ。やわらかいタコにショウガやミョウガなどの薬味が利いた上品な味わいで、もはや一品料理と呼べそうな風格だった。(ライター・福光恵)

AERA 2019年3月11日号