AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
* * *
2月24日に発表された米アカデミー賞で作品賞など3冠に輝いた「グリーンブック」。「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルン役や、「危険なメソッド」のフロイト役など、知的でシリアスな印象が強烈なヴィゴ・モーテンセンが、イタリア系アメリカ人のトニー・リップを演じる。
「名作映画でイタリア系を見事に演じた人は多いから、最初は乗り気ではなかった」と、大胆なイメージチェンジとなる役に躊躇したと明かす。
1960年代ニューヨーク。助演男優賞を射止めたマハーシャラ・アリ演じる天才的黒人ピアニストのドン・シャーリーは、南部ツアーのために運転手兼用心棒としてトニーを雇う。
「ピーター・ファレリー監督は『メリーに首ったけ』などコメディーで有名な監督。でも本作は彼の得意とする笑いとは違うんだ。冗談でなく、状況が生む笑い。トニーの非常識で過激な発言に対しドンがどう反応し、トニーがどう返すかが鍵。二人の発言はシリアスなのにおかしいんだ」
学識と威厳あふれる黒人アーティストと下町育ちの白人用心棒が生み出す笑いを、こう分析する。グリーンブックとは、黒人が米南部を旅する時に使った、黒人専用ホテルやガソリンスタンドなどを記した旅行ガイドだ。笑いあふれるスクリーンの背後には、差別社会に対する厳しいメッセージも込められている。
「この作品は無知と闘う映画だ。偏見は無知から生まれ、無知は情報の欠如に端を発している。会ったことのない人、触れたことのない文化に対する恐れからきていると思う」
脚本賞も受賞した本作は、プロデューサーのニック・バレロンガの父・トニーにまつわる実話だ。保管されていた手紙を基にしたシーンが、ほんわかとした笑いと涙を誘う。