──『なのはな』には、福島弁もたくさん使われています。福島弁の響きが、物語に精彩を与えているようです。

萩尾:知り合いの音楽家・明石隼汰さんが福島出身で、福島弁の監修をしてくれました。

倉田:原作にはギターの弾き語りで「アララ・ソング」を歌うミュージシャン・石田音寿(おんじゅ)が登場しますが、舞台では明石さんに作曲と、その役の出演をお願いしました。主人公のナホちゃんはじめ登場人物たちは声高に文句を言わずに、日々を精いっぱい生きている中で、音寿が歌うアララ・ソングが一番強く、音楽の力を借りながら本音を叫んでいます。そこがミソだな、と思って。音寿の名前が「音を寿ぐ」なのも素敵です。

萩尾:あとから明石さんに聞いたんですが、福島では驚いたときに「あらら」と言うそうで、よく使うんですって。

倉田 『なのはな』を読んだときには、自分自身も浄化されたような気持ちになりました。萩尾さんの作品には、小説で言うところの行間というか、直接的に描かれていない部分がたくさんあります。作品世界の奥が深くて、ピュアな部分が隠れているので、真摯に向き合わないと作品にはね返されてしまう、という気持ちになります。謙虚に歩み寄っていかないと、入っていけないんです。

萩尾:倉田さんの演出には、物語の骨格を損ねないという特徴があります。アニメや演劇になるとき、演出家の好むものに変化してしまうことがありますが、倉田さんは作品の芯をとらえてくれます。そのうえで脈絡をもって、時間割を作り、音楽を入れて舞台を作るので、大変な仕事だと思います。

倉田:自分が原作を読んで感動したことを、そのまま舞台にしたいだけなんです。

萩尾:その感動が正確で、外さないんじゃないでしょうか。いつも物語の深いところまで降りていきますよね。だから私は、倉田さんの舞台を観ていると、いろいろなことに気づかされるし、時々まるでお能の舞台を観ているような、不思議な気持ちになるんです。生身の役者さんが舞台に上がって、お客さんも入ると劇場は異空間になります。その舞台を私も観客の一人として楽しみにしています。

(構成/ライター・矢内裕子)

AERA 2019年3月11日号