どちらかというと、アートハウス系ではあるが、決して先鋭的ではない。むしろ万人に感動を与えそうなウェルメイドな空気を持っている。日本でもヒットするのではないだろうか。

 同じく黒人差別をテーマにしながら、「ブラック・クランズマン」は、監督がスパイク・リーだけあって、思い切りとんがっている。白人至上主義の結社KKKに潜入捜査をする黒人と白人の刑事コンビが主人公だ。

 リー監督らが脚色賞を取った時、今年の授賞式で最大の盛り上がりをみせた。プレゼンターの黒人俳優サミュエル・L・ジャクソンが「ワオーッ」と小躍りし、リー監督がジャクソンにジャンプして抱きついた。

 リー監督は米国の黒人の歴史について語った後、2020年の大統領選に触れ、「歴史を正しい方向に導こう。ドゥ・ザ・ライト・シング!」と自作の映画タイトルをもじって叫んだ。

 トランプ大統領がメキシコ国境の壁建設に関し、国家非常事態を宣言した直後の授賞式だったこともあり、多くのトランプ批判が飛び出すかと思われたが、はっきりトランプを批判したのはこのリー監督だけだった。「ROMA/ローマ」で監督賞などを得たメキシコのアルフォンソ・キュアロン監督も、比較的穏健なスピーチだった。

 司会を務めるはずだったケビン・ハートが過去の同性愛嫌悪と取れる発言が明るみに出て、直前になって辞退を表明。今年は司会者なしで進行した。アダム・ランバートをボーカルに迎えたクイーンの演奏など、話題はあったものの、例年ならば、司会者が政治的ギャグをかましたり、客席のスター俳優を過激にいじったりする面白さがあったのだが、今年はそれもなし。受賞結果とともに、少々おとなしい授賞式となった。(文中一部敬称略)(朝日新聞編集委員・石飛徳樹)

AERA 2019年3月11日号