トランプ大統領のロシア疑惑への関与を疑わせるような証言が公になるのは初めてで、それまで疑惑を「魔女狩り」と批判するだけだったトランプ大統領も深刻な事態と受け止めたのは間違いない。実際にトランプ大統領はハノイでの記者会見で、米朝首脳会談のさなかにあってもコーエン被告の公聴会を時間が許す限り見たと語り、逆にコーエン被告の発言を逆手にとって、「彼は多くのウソをついたが、一つだけ正しいことがある。ロシアとの共謀がなかったと言ったことだ」と強調した。

 コーエン被告はさらに、元ポルノ女優に対するトランプ大統領との不倫口止め料の支払いやモスクワでのトランプタワー建設をめぐる交渉期間の偽証、保有不動産をめぐる脱税など、自身が陰で動いてきた不法行為の数々を告発。また、自身が関わっていない行為については、関与した疑いのある多くの関係者の実名を惜しげもなく公表した。

 トランプ氏自身の成績を公開しないよう出身校に圧力をかけるなど、トランプ氏の指示で過去10年間に500回、個人や団体を脅迫してきたことも明かした。そして今、ロシア疑惑への捜査協力をめぐってコーエン被告自身がトランプ大統領に脅かされているという。

 事実だとすれば、組織犯罪のオンパレードで、とても大統領職にとどまれる状態ではなくなる。刑事責任を問われるべき不正が多すぎるのだ。公聴会に出席した共和党の下院議員らは、コーエン被告を「病的なウソつき」「減刑を狙った詐欺行為」などと批判して、証言内容の事実関係よりも個人攻撃に徹したが、「ウソ」や「フェイク」は、むしろトランプ大統領の得意分野。どちらがウソをついているのかは、あらゆる文書や関係者に強制的にアクセスできるマラー特別検察官による捜査結果が証明することになる。

 コーエン被告が公聴会で実名を明かした多くの関係者からもマラー特別検察官は事情聴取をしているとみられ、裏付け捜査も済んでいるはずだ。CNNは、捜査がほぼ終結していると報じており、その結果が発表される日も近いとみられる。

 世界中の注目を集めた米朝首脳会談で、歴史的な成果を得ることに失敗したトランプ大統領。さらに悪いことに、歴史的汚名を刻むことになるかもしれない悪夢の始まりをみることになった。ただ、トランプ大統領にとっての悪夢は、米国にとってはいいことになる。そんな思いが、公聴会でのコーエン被告の最後の発言に表れていた。

「トランプ氏の命令で私は正しくない行動をしてきた。何も考えずに彼の要求に従ったことの代償は大きかった。家族の幸せや友人、生活、名誉、評判、そして自由など全てを失った。この国が私と同じようにならないためにも、私が沈黙するわけにはいかない」 (アエラ編集部・山本大輔)
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