遊び心をくすぐるサーカス小屋を模した展覧会場。東京・世田谷文学館での展示は3月31日まで。その後、神戸、広島、静岡、高知などを巡回する予定(撮影/須藤正男)
遊び心をくすぐるサーカス小屋を模した展覧会場。東京・世田谷文学館での展示は3月31日まで。その後、神戸、広島、静岡、高知などを巡回する予定(撮影/須藤正男)
「ギュスターヴ若冲雄鶏図」 2016年/猫の顔とヘビの腕、タコの足を持つギュスターヴくんと江戸時代の画家・伊藤若冲の代表的なモチーフである鶏を描いた作品 (c)Yuko Higuchi
「ギュスターヴ若冲雄鶏図」 2016年/猫の顔とヘビの腕、タコの足を持つギュスターヴくんと江戸時代の画家・伊藤若冲の代表的なモチーフである鶏を描いた作品 (c)Yuko Higuchi

 絵本やイラストを用いたグッズなどでも人気の画家・ヒグチユウコさん。20年にわたる画業のなかで描いた、膨大な作品を紹介する、初の大規模展覧会「CIRCUS」が開催中だ。

【展覧会の作品の一部はこちら】

*  *  *

「きみはネコなの? ヘビなの? タコなの?」

 ヒグチユウコさんの人気キャラクター、ギュスターヴくん(写真参照)は、顔は、両腕はヘビ、下半身はタコという、不思議な生き物だ。一見すると可愛らしいのに、じっと見ていると、不穏な気持ちがじわじわとわいてくる。

 ただ一筋縄ではいかない、奥行きのある作品世界の集大成ともいうべき展覧会「CIRCUS(サーカス)」が、東京・世田谷文学館で開催中だ。

 布をあしらったサーカス小屋を思わせる入り口から会場へ入ると、黒い壁にさまざまなサイズの原画が展示されている。中には鉛筆描きの小さな作品もあり、思わず顔を寄せて見入る来場者も。反対側の壁には、ぬいぐるみ作家・今井昌代さんによるキャラクターの造形作品も並ぶ。700点余りの原画と造形作品約100点のほか、書籍や雑誌、ポスターなども公開され、見ごたえがある。

 今回、「サーカス」と銘打ったことについて、ヒグチさんはこう語る。

「展覧会が巡回するということもあり、サーカスの一つところに立ち止まらず巡業していく様子、観客を楽しませる面と、ほの暗い物寂しさや闇が表裏一体となっているところ、幼い頃から若い頃にかけて触れた、サーカスが出てくる小説や映画の影響などからテーマにしました」

 その言葉どおり、会場の中央には、サーカステントを模したスペースが作られ、ギュスターヴくんはじめ、ヒグチさんが生み出した不思議な生き物たちが集められている(写真参照)。覗き穴からキャラクターたちの映像を見られるような仕掛けもある。

「ヒグチユウコさんは画家でありながら、近年は絵本作家としても活動の幅を広げていることや、絵本ではない作品にも一点一点に物語性を感じさせる独特の画風に、以前から注目していました。2年ほどかけて、来場者に楽しんでもらうためのアイデアを出し合い、できあがった展覧会です」

 と、学芸員の庭山貴裕さん。

 会場にある和室には、「猫風神雷神図」や伊藤若冲生誕300年を機に描かれた「ギュスターヴ若冲雄鶏図」など、日本のモチーフを描いた作品を集めており、見どころのひとつだ。

次のページ