「近年、睡眠の質が注目されるようになっていますね。私は、睡眠の質を損なう最たる要因は、こうした鼻づまりではないかと考えています」

 黄川田医師は30年以上、慢性鼻炎や鼻づまりの効果的な治療法を追究してきた。同医師によると、この20年ほど鼻炎や副鼻腔炎などの鼻のトラブルを抱える人は世界で増加傾向にある。アレルギー性鼻炎は成人の20~30%、小児では40%にも達するといわれる。

 近年、鼻づまりと睡眠の関係が注目されるようになり、非アレルギー性鼻炎の患者の8割以上が睡眠障害を抱えているとの報告もあるという。

 ところが、千葉さんのように、鼻づまりで睡眠の質が下がっていることに気づいていない人が少なくない。

「鼻の粘膜は時間帯で腫れが変動するので、日中は通っていても、夜間や早朝に腫れが出るケースが非常に多いのです。私は自覚のないこうした鼻づまりを『隠れ鼻づまり』と呼んでいます。睡眠中に鼻づまりがあれば、睡眠の質の低下に直結してしまいます」(黄川田医師)

 なぜ、鼻づまりが睡眠の質を損なうのか。

「鼻は、酸素を最も効率よく体内に取り入れるための器官です。鼻の内側の粘膜は、空気中のごみや細菌を濾過して取り除き、適度に湿気を与えて温め、その量を調整してくれます。鼻呼吸は、のどから肺までの空気の通路を広げ、血中への酸素の取り込みを促進することもわかっています」(同)

 鼻の粘膜が腫れて空気の通り道がふさがり、鼻づまりが起こると、足りない酸素を補うため、口呼吸に頼ることになる。だが、口呼吸には鼻呼吸と同じ機能はない。血中に取り込める酸素量も減ってしまう。

「鼻がつまって口呼吸になると喉も狭くなり、苦しいという刺激が脳にいき、深い睡眠を得られなくなってしまいます。すると、脳が十分に休めずに疲弊します。特に前頭葉と頭頂葉は影響を受けやすく、人間が進化の過程で発達させてきた理性や情報処理といった『人間らしさ』を司る部位であるため、QOLが低下してしまうのです」(同)

 もしもあなたが睡眠時間をとっているはずなのに、頭が冴えずミスが増えるというなら、それは睡眠時の鼻づまりのせいかもしれないのだ。

 どうすれば、隠れ鼻づまりを見つけられるのか。黄川田医師に聞いた、隠れ鼻づまりのチェックポイントをまとめたものがこのチェック表だ。いびきをはじめ、起床時の疲労感やのどの渇きなど、「自分もある」とぎくりとする人も多いのでは。

「起床時に口やのどが渇いていたら、睡眠時に口呼吸になっている可能性が高い。いびきをかくのも口呼吸になっているためで、鼻づまりのサインと考えられます」(同)

(編集部・澤志保)

AERA 2019年3月4日号より抜粋