その一方、収支は厳しい。17年度の書籍の売り上げは収入全体の1割強に過ぎず、運営費の多くを市の一般財源や基金に頼る。完全に「赤字」だ。

「売り上げだけに着目すると、一部批判もあります。ですが、本を売るための施設ではなく、本に親しむ機会をつくるための施設であり、周囲の書店との相乗効果を生むことを目的としています」(前出・澤さん)

 市民の読書熱は高まったようだ。個性的な店も登場している。話題を集めるのは、同市で創業90年以上を誇る、手描きのポップごと買える「木村書店」だ。

 自分が本当に面白いと思った本を書店で手に取ってもらえるように、17年夏から及川晴香さん(31)が、手描きで一枚一枚ポップを作成。売れ筋ではないが、良質な本と出合ってほしいという市の思いにシンクロするように、店内は、約100種類のポップつきの本が彩る。

「ポップに興味を持って買っていただいたお客さまに『面白かった』と言われることも多く、やりがいを感じています。ポップによってコミュニケーションの幅が広がりました」と、及川さんはほほ笑む。

 イラストは人気を呼び、文庫の年間ベストテンなどを載せた書籍『おすすめ文庫王国2019』の表紙にも抜擢された。今ではブックセンターから「書店はしご」をする人や、うわさを聞きつけ県外から来る人もいる。

「地域に根ざし、個性的なお店づくりをする書店が八戸にはいくつもあります。書店とも連携し、より豊かな本と出合える環境をつくっていきたいです」と熊澤さんが語るように、書店同士が商売敵ではなく、「本を愛する仲間」として関係を深めることで、集客力や売り上げを伸ばしている。デジタルにはまねできない、リアル書店の強み。そのヒントを八戸市は教えてくれる。(ライター・我妻弘崇)

AERA 2019年3月4日号