スキャンダルで失脚した政治家を描いた映画「フロントランナー」。主演のヒュー・ジャックマンはこれまでで一番研究してこの役に臨んだ。作品への思いや見どころを聞いた。
【ヒュー・ジャックマンがこれまでに一番研究して役に臨んだ映画はこちら】
* * *
ヒュー・ジャックマン(50)といえば、筋骨隆々のアクションヒーローかミュージカル映画で朗々と歌い上げる姿をつい思い浮かべてしまう。だが、実際には役の幅は広く、人間ドラマも達者にこなしてきた。最新作の政治サスペンス映画「フロントランナー」で挑戦したのは米大統領予備選中、スキャンダルで失脚した実在の政治家ゲイリー・ハートだ。
舞台は1988年、ブッシュ(父)大統領が初当選した大統領選。当時20歳だったジャックマンもこの事件を「スキャンダルで消えた泡沫候補的な人がいたな」という程度には記憶していたという。大学でジャーナリズムを専攻していたこともあり、政治家vs.マスコミの攻防という物語にのめりこんだ。分厚いバインダー5冊分の資料を読み込み、映画には登場しないハートの演説まで暗唱し、「これまでで一番リサーチした役」になった。存命の人物ということもあり、本人宅を訪ね語り合った。
「ゲイリー・ハートは並外れて頭が切れる人なんだ。僕の目の前で『政治家を判断するときに必要なのは』と言ってマトリックスを書きだした。横軸に右─左、縦軸に未来─過去、そこにリンカーン、ジェファーソン、レーガンと入れていって言うんだ。『左右はどちらでもいい。未来の話をする政治家だけを信用すべきだ。我が国のかつての栄光を取り戻そう!みたいに過去の話をする政治家は歴史的にみてろくなのがいない』と。目を開かされたよ」
ケネディの再来と言われ、知的でカリスマ性も備えた若き上院議員ハート。特筆すべきはその先見の明で80年代後半にいち早くソ連崩壊や、グローバル化によるアメリカの分断、テロの台頭などを予見していたことだ。
映画の最後10分間に流れるスピーチはまさに現代の予言のようで圧巻だ。大衆はマスコミが考えるよりもずっと理性的だと信じ、マスコミによる私生活の追及に応じる必要はないと考えるハートは言う。≪このような慣行が当たり前になったら優秀な若者は政界を目指さなくなってしまうだろう≫
本作は結果的に歴史に埋もれた政治家ハートの名誉回復にもなっているのでは?