小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
ピンクリボン活動をはじめ、がんに関する啓発活動は年々盛んになってきた。周囲の受け止め方も「進化」させたい (c)朝日新聞社
ピンクリボン活動をはじめ、がんに関する啓発活動は年々盛んになってきた。周囲の受け止め方も「進化」させたい (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】ピンクリボン活動をはじめ、がんに関する啓発活動は年々盛んになってきた

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「人って、がんと聞くとリアクションに困るみたいなんです」。知人ががんと診断された時の話です。

 治療のために今まで通りには働けなくなるけど、できる範囲で仕事を続けたい。でも病名を聞いた時の相手のリアクションがあまりにも戸惑いに満ちているので、果たして言うべきかどうか悩ましいというのです。私も、一緒に仕事をしている仲間ががんと闘病しているとわかったことが2回あります。いずれも若く、幼い子どものいる人でした。確かに、最初はなんと言葉をかければいいのだろうと悩みました。

 とにかく治療を最優先にしてね、今までと仕事のペースが変わっても引き続き一緒に働きたい、人や情報につなぐなど私に出来ることがあればいつでも頼ってほしい、と気持ちを伝えました。私もかつて不安障害を発症した時に、会社に勤めながら治療を続けたのですが、もし治っても「もう使えない人」という烙印を押されて仕事がなくなってしまうのではないかと、とても不安でした。

 先述の知人も、おそらくがんと聞いた時に相手が「ああ、この人はもう働けないのだな」という顔をするのを見て、告げるのを躊躇するようになったのではないかと思います。治療しながら働いている人も、休んでから復帰している人もたくさんいるのに、「がん」と聞いたら思考停止してしまうのですね。

 以前、友人の身内ががんの手術を受けたと聞いて、反射的に悲痛な声でお見舞いの言葉をかけてしまったことがあります。そのとき「そんなふうに深刻な感じで励まされると複雑な気持ちになる。がん患者はみんな瀕死だと思われちゃうけど、上手く付き合いながら生きていくこともできるんだよ」と言われて、ハッとしました。やがて年齢を重ねるにつれて、周囲に病と共に生きる人が増え、友人の言葉がより実感できるようになりました。サバイバーはたくさんいるのだと。今よりもっと安心して周囲に病名を告げて、支援に繋がることができるようになりますように。

AERA 2019年2月11日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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