「私自身、人生を生きているその方の姿を見たい。魂を感じられる歌を聴きたい。だから、もし歌のために躊躇(ちゅうちょ)されるなら、そこはいくらでも変更致しますとお伝えしました」

 人生を生きている人の姿を見たい──。その言葉に池田さんは決心した。

「蝶々夫人は非常に難しい。冒頭は15歳で死んだ時は18歳という設定です。そんな小娘が私のような声を出すわけもありません。ただ、私は(オペラ歌手として世界的に有名な)東敦子先生に教わった最後の卒業生。先生の歌い方そのままに歌わせていただこうと思いました」(池田さん)

 一つのキャリアを極めた女性たちによる舞台という新たな挑戦。山村さんは言う。

「今振り返ると、アナウンサーは仮の姿(笑)。アナウンサーは人を活(い)かす仕事ですが、俳優もまた、一緒に芝居する役者を輝かせることができる仕事ではないかと思います。定義は人それぞれだとは思いますが、私の場合、そんなアナウンサーの定義としていたものが俳優としても生きています」

 年を重ねるごとに人はできないことを考えがちだ。だが、山村さんは樹木希林さん、池田さんは市原悦子さんの名を挙げて、年を重ねることで演技にすごみが増すことを教えてくれた。山村さんは言う。

「理代子さんにお願いしたかったのもそこ。年を重ねてもこれだけすてきにできるということを皆さんに見ていただきたい」

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2019年2月11日号