「特殊な遺伝子変異がある可能性があるからです。この遺伝子変異があって30歳未満の場合、医療被曝で乳がんのリスクが高まると報告されています」

 ある女性(65)は、数年前の自治体検診の便潜血検査で1度陽性反応が出た。だが、痔の既往症もあったので、「たまたまだろう」と気にしていなかった。数年後、貧血を起こし体調が悪いと病院に行くと、進行した大腸がんと診断された──。

 女性のがん死亡数1位が、大腸がんだ。大腸がんは、ごくまれなケースを除き、10年、20年といった時間をかけてゆっくりと進行する。早期発見できれば予後はいい。それなのに、先の女性のように進行した状態で見つかる人があまりに多いという。

 男性の大腸がん死亡数が3位なのに女性が1位の理由の一つは、がん発症リスクの上がる中高年の女性の多くが、専業主婦などで成人検診を定期的に受ける機会がなかったこと。

「便を提出するという検診内容が羞恥を誘い、抵抗があるという人もいるかもしれません」(近藤医師)

 一般的ながん検診とされる便潜血検査の有用性はどれくらいなのか。

「大腸がんを便潜血検査で指摘できる可能性は、30~56%、2~3回繰り返して84%程度と言われています。1回の検査だと不十分なので、便潜血検査は2回行うことになっていて、2回中1回でも潜血があれば、『便潜血陽性』と診断され、精密検査に進むことになります。便潜血検査で1度陽性と出ても、2回目が陰性だったから様子を見ようというのは間違いです」

 陽性と診断されれば、大腸カメラ(大腸内視鏡)に進む。事前に1~2リットルもの下剤をかけ、腸内を洗浄してからの検査となるため、患者の負担も小さくない。

 医師アンケートでは、42%が便潜血検査で済ますと回答したが、58%が大腸カメラを選ぶと回答している。

「おそらく、大腸カメラのメリットが大きいからでしょう」と近藤医師は言う。

 大腸がんは、粘膜に直接がんができるケースと、ポリープから徐々にがん化していくケースがある。ポリープを便潜血検査で指摘できる可能性は11~18%だが、大腸カメラであれば、直接粘膜を見られるからだ。

「ポリープが全くなければ大腸がんのリスクは低いと考えられますし、ポリープがあったり数が多かったりした場合は、定期的にフォローしてリスクを低減できます。大腸がんのリスクは40歳を超えると上がるので、一度は大腸カメラでポリープの有無を調べておくとよいでしょう」

(編集部・澤志保)

AERA 2019年2月11日号より抜粋