両国の政治対立は、イランとサウジアラビアの対立が背景にある。UAEやサウジなどの各国とは、同じ湾岸諸国として関係が良かったカタールだが、イラン寄りの立場をとっているとの批判を強めたサウジが17年6月、「テロを支援している」などとしてカタールと国交断絶。UAE、エジプト、バーレーン、イエメンなどもサウジに続いた。それから約1年8カ月、欧米各国の仲裁努力もむなしく、対立解消の糸口すら見えない。

 国家が対立をあおる危機的な状況が、スポーツの世界にも暗い影を落としたのが今回のアジアカップだった。22年11月末に「初の冬の大会」として開幕予定のW杯の会場はカタールだ。同国代表チームがアジアカップで受けたような「愚行」の仕返しの場になる危険性をはらんでいる。欧州やアフリカ、あるいは中東の他の国で生まれながらも国籍を取得して代表選手になるのが当たり前の中東各国だけに、多様性に富んだ選手が多いのが特徴の一つ。これを利点として、国境を超えた連携が生まれれば、中東からスポーツマンシップを世界に発信できるのに、国家対立が介入すると、なかなかそうならない難しさがある。

 26年大会からW杯の出場国枠を32カ国から48カ国に拡大することを決めている国際サッカー連盟(FIFA)だが、22年のカタール大会が、その最初の大会になる可能性も出てきている。AP通信によると、施設整備が必要なカタールの同意が不可欠だとしており、その判断にアラブ諸国内の対立が影響するとなれば、W杯出場を望む全ての国の問題にもなってくる。FIFAは3月にも最終判断を下すとみられている。

 協調から対立の時代に移りつつある世界情勢の中で、平和の象徴であるはずのスポーツの祭典に、政治や国家間対立が反映されることが多くなった。

 カタールに敗れたUAEの監督が敗戦後の会見で残した言葉が印象的だった。日本代表を率いてアジアカップを制したこともあるイタリアのザッケローニ監督だ。

「責任は全て監督である私にある。試合結果をファンにおわびしたい。ただ、カタール代表はわれわれよりも優れたチームだった。それは認めざるを得ない」

 カタールへの応援が政治的に禁止された大会で、カタール代表をたたえたザッケローニ監督。こうした監督や選手らの「スポーツマンシップ」を、観客も政治家も見習うべきだ。(AERA編集部・山本大輔)

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