稲垣えみ子「捨てられない父の贈り物、漬物の幸せな隠し味に」

連載「アフロ画報」

稲垣えみ子AERA#稲垣えみ子
カラカラになったミカンの皮はすり鉢で粉に。天使のような香り! 唐辛子粉と混ぜて薬味に(写真:本人提供)
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カラカラになったミカンの皮はすり鉢で...

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】カラカラになったミカンの皮を粉に。 唐辛子粉と混ぜて薬味に

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 さて、ものを捨てられない父です。整理を手伝おうかというと「いや自分でできる」と言い張り、しかし一向に手をつけている気配のない父であります。

 なのでこの際、捨てることは一旦脇に置くことにしました。考えてみれば、別に捨てることがエライわけでも、捨てられないことがエライわけでもありません。人には長年の習慣と、得意・不得意があるというだけのことです。

 捨てられない父に助けられていることがあります。

 果物の皮を捨てずにベランダで乾かしてもらうのです。

 父は果物をよく食べます。というか、我が家族は昔から果物をよく食べたのでした。ミカン、リンゴ、カキ、モモ、ブドウ。そんな季節の果物を家族そろって、夜のひとときテレビなど見ながら食べる。それはどことなく豊かさを感じる時間でした。一日を終えリラックスして、ちょっとしたデザートを頂く。中流家庭のささやかな幸せがそこにありました。

 でも就職して一人暮らしを始めた私は、その習慣を続けることはありませんでした。一人で食べたってさしておいしくないし、心の余裕もありませんでした。そのうち、果物は体を冷やすという健康情報を得て、冷え性の私は果物を口にすることもなくなっていきました。

 しかし両親は、子供が独立した後も、この習慣を絶やすことなく続けていたのです。そして母が亡くなった今も、父はこの習慣を続けているのです。

 一方の私は、果物の皮を重宝するようになりました。冷蔵庫をやめて漬物生活になると、皮は貴重な隠し味なのです。ぬか漬けでも沢庵漬けでも、その上品な甘みと酸味は他の甘味料では決して代用できません。でも皮欲しさに果物を買うのも本末転倒。というわけで、頼りは父なのでした。

 月に1度、実家に帰ると、父が「忘れないうちに」と、ビニールにどっさりと入れたカラカラの皮を手渡してくれます。丁寧にむかれた皮に、父の懸命な暮らしを思います。

AERA 2019年2月4日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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