今回の展示の中心となるボールペンや鉛筆によるドローイングは、2014年に撮影した中国映画「羅曼蒂克消亡史(ロマンティックしょうぼうし)」(16年に中国で公開)がきっかけで描き始めた。現場で日本人はほぼ一人。自分の思いが伝わらず、ものすごい孤独とストレスを抱えるうちに、気づけば映画のスケジュール表の裏にがむしゃらに落書きをしていたという。日本に帰ってきてもそれが止まらず、A4のコピー用紙に描くようになっていった。

「ストレス発散で描くことが多いですね(笑)。なぜA4用紙かと言うと、現場でスケジュール表や資料としてもらう紙がA4だから。『この紙もったいないな。裏に描けるなぁ』と思いながらクリアファイルに入れておくんです。普段持ち歩いているから、空き時間を見つけてはそうした紙に描いています」

 モチーフは不規則だ。

「自分でもなぜそれを描きたいのかわからない。でも、描き出すと気になるから何度も同じ絵を描いている。ある意味、繰り返し描くことが思索の時間になっているのかもしれません」

 さりげない1枚の作品が映画の1カットを思わせる。おのずと俳優・浅野忠信の姿も浮き彫りになっている。(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2019年2月4日号