乗降口の左に掲げられていた愛称板が盗まれた、鉄道博物館の「クモハ455形」。乗降口には札が立てられ、中に入れなくなっている (c)朝日新聞社
乗降口の左に掲げられていた愛称板が盗まれた、鉄道博物館の「クモハ455形」。乗降口には札が立てられ、中に入れなくなっている (c)朝日新聞社
IGRいわて銀河鉄道が設置した「Train Spotter’s」。足元には、雨や雪による転倒を防ぐ滑り止め塗装も施している(写真:IGRいわて銀河鉄道提供)
IGRいわて銀河鉄道が設置した「Train Spotter’s」。足元には、雨や雪による転倒を防ぐ滑り止め塗装も施している(写真:IGRいわて銀河鉄道提供)

 マニアの「聖地」で前代未聞の盗難事件が起きた。鉄道ファンのマナーが崩壊する中、新たな試みが始まった。

【写真】撮り鉄のマナー向上に!撮影専用ブース「Train Spotter’s」はこちら

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 ここまでひどい被害はスタッフの記憶にもないという。

 昨年12月28日、鉄道ファンの聖地「鉄道博物館」(通称・鉄博=てっぱく、さいたま市)で起きた盗難事件。本館1階で展示されている旧国鉄時代の車両「クモハ455形」で、乗降ドア脇についていた「まつしま」の愛称板(レプリカ)が盗まれるなどしたのだ。防犯カメラを設置し警備員による巡回もしていたが、被害に遭った。未曽有の盗難事件に鉄博の宮城利久(みやぎとしひさ)館長は、

「当館として到底看過できるものではありません」

 と怒りのコメントを発表。被害届を大宮署に提出し、今後は新たな対策も検討するという。

 鉄道ブームが続く中、問題となっているのが一部の鉄道ファンのマナーの悪さだ。鉄博の事件は鉄道関連の設備を盗む「盗(と)り鉄」と呼ばれる悪質なマニアの仕業とみられ、全国の鉄道会社でも被害を受けている。昨年8月には、「秘境駅」で知られるJR土讃線(どさんせん)の坪尻駅(徳島県三好市)の待合室にあった記念スタンプが盗まれた。5カ月たっても戻らず、今年になってJR四国は新調した。

 ただ、鉄道会社側も手をこまぬいているわけではない。

 毎年のようにつり革の盗難などが起きる東京メトロは、2018年度から車内にセキュリティーカメラの設置を始めた。丸ノ内線と日比谷線ではすでに一部に導入済みで、銀座線は19年度から順次設置。その他の路線でも、新造車両や大規模改修に合わせて増やしていくという。

「つり革の盗難や座席シートのいたずら、迷惑行為など車内での犯罪行為がたびたび発生していることは、許しがたい行為であり、誠に遺憾です」(東京メトロ)

 一方で共存を目指す動きも出てきた。

 走るSLを撮る「撮り鉄」が沿線の菜の花を踏みつぶすなど、しばしば問題が起きる真岡鉄道(本社・栃木県真岡市)は17年3月に「マナーアップ写真教室」を開催した。列車の撮り方に加え、「線路内に侵入しない」「業務を妨害しない」といった撮影の基本的ルールも教えた。真岡鉄道によれば、写真教室の効果もあってか最近は撮り鉄による被害は報告されていないという。

 講師を務めた鉄道写真家の遠藤真人さん(29)はこう話す。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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