「そこは巡り合わせなので、自分では何とも……。僕の仕事は、たくさんの方のおかげで自分のところまで流れついたキャラクターを“どう演ずるか”ということだと思うので」

 流れてきたものを受け止める。海を愛する木村らしい表現だ。

 奇しくも木村の仕事観は、ホテルマンにも通ずるものがある。

「謝れ!」「土下座しろ!」と理不尽な要求ばかりしてくる客たちに反発を覚えていた新田。しかし山岸とともに「仮面の裏側に隠された事実」に触れていくことで、次第に客に対して投げかける視線が変わっていく。

「ホテルマンだけでなく、いろんな職業で理不尽なことってあると思う。僕自身、『こうらしい』『みたいだ』という臆測だけで語られて、一瞬理不尽な感覚を覚えることもある」

 そういった誤解や敵意にさらされたとき、どう乗り越えていけばいいのだろう。

「自分のセンターに『こうだ』という自分の事実がしっかりあれば、そこで左右されることはない。砕氷船みたいに、ガーッと真っすぐ進むことができます」

 やはり自分が積み重ねてきたものを信じることが大事?

「『自分を信じる』っていうのは、自己完結的ですよね。今の自分を形成しているのは自分だけではなくて、例えば仕事なら身近なスタッフがいてくれるおかげだし、家に帰れば家族が待ってくれている。だから個体で考える感覚は、僕にはあまりないんです。そういう人が自分の周りにいてくれるということが、僕にとっての『事実』なので」

 相手を疑うときの目は険しい。だが、事実を見つめるときの彼の眼差しは、とても優しい。(ライター・澤田憲)

AERA 2019年1月28日号