「笑いを書かないほうが難しい」松尾スズキ新刊で108の煩悩を描く

矢内裕子AERA#読書

108
松尾 スズキ
978-4065136621
amazonamazon.co.jp

 松尾スズキさんの新刊『108(イチマルハチ)』は、妻からの告白を聞いた脚本家・海馬五郎が、復讐として108人の女性と関係を持つことを決意、悪夢のような出来事に巻き込まれていくというストーリーだ。著者の松尾さんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *
「自分で劇団を作って、戯曲を書き、演出して、役者としても出ていましたから、マルチであることが出発点なんです」

 そう語る松尾スズキさんの新作は『108(イチマルハチ)』。今秋に公開予定の映画作品の小説版。小説執筆に加え、映画では、監督・脚本・主演もこなす。

「『108』は最初に映画のシナリオとして書きあげました。主宰する劇団の大人計画を始めてからちょうど30年を迎えることもあり、喜劇を書いてきた者として、ウディ・アレンやメル・ブルックスのように、監督・脚本・主演をした映画を撮ってみたかったんです。脚本を書きあげてから、小説として書くのもいいな、と考えました。映画では表現できない主人公の心情や背景も、小説なら書けますから」

『108』の主人公は脚本家の海馬五郎(かいば・ごろう)。芥川賞候補になった『もう「はい」としか言えない』などにも登場する、松尾ファンにはおなじみのキャラクターだ。

 妻が若いダンサーとの浮気妄想をフェイスブックに投稿していることを海馬が詰問すると、「考える時間が必要」と妻は家を出てしまう。逆上した海馬は復讐として、妻のフェイスブックにあった「いいね」の数と同じ、108人の女性と関係を持つことを決意する。

 読みながら思わず笑ってしまう、文字で表現された「間」やシチュエーションに、無類のセンスを感じる。

「小説は筒井康隆さんから入っているので、笑いを書くのは自然なんですよ。それに喜劇をずっとやってきましたから、笑いを書かないほうが難しい。笑いがあることで悪い感情は生まれないし、体にとっては快感ですよね。ただ担当編集者からは、『文学賞のためには笑いは余計』と、言われるんですが(笑)」

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