日本では小説におけるユーモア、笑いが軽んじられていると、ずっと言われてきたが、「僕はずっと、その片隅で戦ってきたんですよ」と、松尾さん。
「作品(『108』)の喜劇性が何かに似ている気がしていたんですけど、書き終わってから映画『男はつらいよ』なんだと気がついた。五郎と妹の関係は、寅さんとさくらみたい。書いているときは意識していなかったけれど、投影していたのかもしれませんね」
一方で、主人公が女性遍歴の「冒険」に乗り出す様子、物語の最後の場面などは、井原西鶴の代表作『好色一代男』を連想させる。
「実は、読んだことがないんですよ。でも、もう読んだことにしようかな(笑)」
(ライター・矢内裕子)
■書店員さんオススメの一冊
『さよならミニスカート 01』は、少女漫画らしい要素を持ちながらも、ジェンダーや性暴力というテーマも扱ったメッセージ性の強い作品だ。リブロの野上由人さんは、同著の魅力を次のように寄せる。
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集英社の少女マンガ誌「りぼん」の編集長が「この連載は、何があろうと、続けていきます」と宣言して注目を集めた作品。アイドルグループのセンターを務める主人公が、握手会で刃物で切りつけられる被害に遭う。アイドルをやめ、女の子であることも(自己)否定して、スカートではなくスラックスで高校に通う。
ジェンダー、性暴力、ルッキズムなどのテーマを果敢に扱い、小学生からの読者を抱える雑誌としては少々硬派に見える。
とはいえ、男の子はちゃんとかっこよくてキラキラしているし「LOVE」も「青春」も描かれた王道の少女マンガだ。読者を狭める要素は特にない。
男の子たちが柔道部員で「力」の制御に自覚的なのはうまい設定。このあと男女双方の視点から性と暴力の関係が描かれるものと期待できる。男性にも薦めたい。
※AERA 2019年1月28日号