大きな成果になっていないものが多いが、欧米との関係悪化や経済の停滞に苦しむロシアには、外交面でも経済面でも日ロ関係を深める利点は大きい。

 さらに安倍首相は、択捉島と国後島を含む四島の一括返還を求める立場から、2島先行返還を軸に領土交渉を進める方針に転換しただけでなく、返還後の2島に米軍基地を置かないとプーチン氏に伝えた。異例とも言えるほどの譲歩だ。

 これに対しロシアはこの間、北方領土に最新鋭のミサイルや戦闘機を配備するなど、日本への配慮はあまり見えない。56年宣言についてもプーチン氏は01年には有効だと認めており、「日本が56年宣言を基礎とした交渉に戻った」との立場だ。

 安倍首相は任期中の平和条約締結に強い意欲を見せ、6月に大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせたプーチン氏来日時の大筋合意を視野に入れる。一方のプーチン氏は期限にこだわらない考えを示しており、日本が足元を見られているとも言えそうだ。

 国内には、ベテラン外交官のラブロフ氏が強面役を演じているだけで、プーチン氏は別だという見方もある。

 ただ、ロシアでは昨年11月以降、2島の返還に反対する集会が何度か開かれた。国民の大半は「南クリルがロシア領であることに疑問の余地はない」と信じていることに加え、返還すれば米国が軍事基地を置くとの懸念も広がっている。

 プーチン氏は以前から、領土交渉の決着には、国民が「日本になら引き渡してもいいか」と納得できるぐらい両国の信頼関係を高める必要があると示唆している。求められるのは、サハリンと北海道を結ぶ巨大インフラの実現か、日本によるクリミア併合の承認か。どれも実現は困難だが、在日米軍の全面撤退さえ要求されるかもしれない。

 安倍首相とプーチン氏の首脳会談は1月22日で通算25回目。プーチン氏の言葉は甘いか辛いか。(朝日新聞記者・中川仁樹)

AERA 2019年1月28日号