沖縄在住の芸人たちが投稿するチャンネル「ワラしがみ」の中で特に人気なのは、「せやろがいおじさん」こと、お笑いコンビ、リップサービスの榎森耕助さん(31)だ。海をバックに赤いふんどし姿で「おーい」と叫ぶのが特徴で、自分の主張を笑いとともに届ける新しいスタイルを編み出した。

「沖縄のきれいな海、奇抜な格好、いやでも目に入る大きなテロップがあれば、流れていくSNSの中で指を止めてもらえるんじゃないかと思って」

「水道事業民営化を進めるお偉いさんに一言」「松本人志さんの『死んだら負け』発言に一言」など、20本余りの動画をアップし、意見が言いにくい時代に風穴をあけている。どんなに度胸の据わった人かと思ったら、

「昔から打たれ弱く、豆腐メンタルどころじゃない。動画をアップした後はビクビクしています。でも、自分の中のもう一人の自分が、『おまえ、思ってることがあるくせに、ここで黙ってていいんか』と言ってくるんですよ。それで作る感じです」

「せやろがいおじさん」を始めたのは17年の秋だった。それまでにお笑いライブなど200本近い動画を上げていたが、再生回数は伸び悩んだ。芸歴10年を迎え、認知を広げなくてはという危機感もあり、SNSで拡散される動画を目指した。

「違法アップロードされたエロ動画を見るやつに一言」や、りゅうちぇるさんのタトゥー、オリンピックのボランティアなど是非が分かれる問題に切り込む動画で人気に火が付いた。ネットなら、沖縄という立地に関係なく勝負できる。生活できる収入にはまだ達していないが、沖縄、東京、大阪でのトークライブも盛況で、手応えを感じている。

 1本約2分の動画は、ドローンとiPhoneでの撮影を各1人に手伝ってもらうほかは、企画から編集まで1人で制作。榎森さんは、ネット上で汚い言葉で偏った意見を言う状況が少しでも変わり、誰でも自由に発言できる空気が生まれたらと願う。

「声の大きい人が言葉の殴り合いをしているから、時事問題について声が出しにくい風潮になっている。僕も発言するのが怖いときはあるし、間違うこともあると思う。でも、決定的に誰かを傷つけたり差別したりしないで、自分なりに考えて真剣に動画を上げていれば、変なことにはならないのでは」

 批判は寄せられるが、それを上回る数の好意的な反応がある。

「モヤモヤすることがあっても自分で声を上げるのは怖いという人が、動画を見る前よりちょっといい顔になって、笑ってくれたら最高です」

(編集部・高橋有紀、ライター・仲宇佐ゆり)

AERA 2019年1月21日号より抜粋