秋篠宮さま(左から2人目)の6歳の誕生日を前に、一家で絵本を囲んだ/1971年11月29日、東京・元赤坂の東宮御所で (c)朝日新聞社
秋篠宮さま(左から2人目)の6歳の誕生日を前に、一家で絵本を囲んだ/1971年11月29日、東京・元赤坂の東宮御所で (c)朝日新聞社

 1月7日に在位30年を迎えた天皇陛下。歩みをともにした皇后美智子さまは、バッシングを受けるなどつらい日々もあった。支えとなったのは、詩や物語だった。親交の深い2人が明かす美智子さまと本をめぐる物語。ノンフィクションライターの歌代幸子氏がレポートする。

【写真特集】美智子さまを支えた本はこちら

*  *  *

 30年来、折にふれて美智子さまに本を届けてきた、英文学者で津田塾大学教授の早川敦子さん(59)には、心に残るエピソードがある。12年に国際アンデルセン賞作家のデイヴィッド・アーモンドさん(67)が来日し、岩手県の被災地を訪れた。地元の高校生に贈られた花束を携え、美智子さまを訪ねたときのこと。美智子さまにお会いすると、「私はミナよ」と微笑まれたという。

 ミナとはアーモンドさんの『ミナの物語』の主人公。本が好きで、想像が好きで、学校ではなく自宅で自由に学習している。自分の気持ちを表す言葉を探しては、ノートに綴る少女の心の軌跡の物語だ。

 アーモンドさんは「私はミナよ」という言葉から、美智子さまのお立場にあってもミナのように自由な精神を保たれていることに感銘を受ける。帰国後、美智子さまのために短編を書いて贈ったという。

 それは「世界の真ん中でダンスを」と題した物語。雪が降りしきる英国の片田舎の街で物語を紡ぎ出す日々から始まり、いかなる場所にあっても想像力が苦しみを乗り越え、希望へ導いてくれることを語りかける。

<世界の真ん中はここにある。でも、それは小さな台所にもある。小さな茶室にも。岩手の学校の舞台の上にも。日本の真ん中の、とある部屋にも。世界の真ん中。それは、どこにでもある場所、みんな一人ひとりの中に……>

 こうした美智子さまの感性は、どのように育まれたのか。その答えとなるような言葉が、子ども時代の読書を振り返った美智子さまの講演にある。

<それはある時には私に根っこを与え、ある時には翼をくれました。この根っこと翼は、私が外に、内に、橋をかけ、自分の世界を少しずつ広げて育っていくときに、大きな助けとなってくれました。

次のページ