外国人患者には医療保険の利用、薬の服用、支払いなどきめ細かな対応が求められる(撮影/岡田晃奈)
外国人患者には医療保険の利用、薬の服用、支払いなどきめ細かな対応が求められる(撮影/岡田晃奈)
外国人が利用できる医療保険(AERA 2019年1月21日号より)
外国人が利用できる医療保険(AERA 2019年1月21日号より)

 訪日外国人数は年間3千万人に迫り、在留外国人264万人、超過滞在者が7万人に上る。さらに入管法改正で、今後5年間に最大34.5万人の労働者が入ってくる。だが、医療の受け入れ体制は未整備だ。

【図表で見る】外国人が利用できる医療保険

*  *  *

 外国人が利用する公的医療保険には、大企業従業員が多い組合健保、中小企業従業員の協会けんぽ、留学生や自営業者も入れる国民健康保険(国保)がある。加入すれば日本人同様、窓口負担は3割だ。政府が成長戦略の柱とする医療ツーリズム利用者や観光客は、全額自己負担が前提なので民間医療保険や旅行保険に入って備えることとなる。

 近年、一部メディアが、協会けんぽの扶養家族が海外在住者に不自然に適用された例や、留学生もしくは経営者と偽って国保に加入し、高額療養費制度で安く治療を受けるケースを報じた。政府は「規制」をかける案を示している。「協会けんぽの扶養家族は日本居住者に限定」「国保は自治体の窓口での資格や活動の調査権限を強化」といった内容である。

 しかし、扶養家族の予想外の利用は、もともと協会けんぽの加入審査が口頭で済むほど緩かったことにも起因している。昨年3月、厚生労働省が協会けんぽの運営主体に審査の厳格化を通知し、この穴はふさがった。扶養家族の不適切な利用はかなり減ったとみられる。

 国保についても、「なりすまし」は構造的問題とは言い難い。厚労省の利用実態調査では、外国人の国保加入者は99万人で日本人と合わせた全加入者の3.4%を占める。これに対し、2017年度に外国人が国内で使った国保の医療費は961億円で0.99%。海外療養費1.7億円を含めても全体の1%を超えるかどうかだ。

 つまり、外国人の国保加入者は、総じて若くて健康な人が多く、日本人の利用の3分の1以下にとどまる。赤字まみれの国保財政の担い手なのだ。

 ごく少数の例をもとに医療保険を制限すれば、不公正でいびつな制度になるのではないか。1990年代初頭から外国人の医療・保健活動に取り組んできた神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所長・沢田貴志医師(58)は、こう語る。

次のページ
沢田医師が語ったこととは?