富田里枝(とみた・りえ)/1965年生まれ。浅草で創業100年を超える和装履物専門店・辻屋本店の4代目。今の時代に合った浅草の和装文化を盛り上げるべく、活躍中(撮影/写真部・加藤夏子)
富田里枝(とみた・りえ)/1965年生まれ。浅草で創業100年を超える和装履物専門店・辻屋本店の4代目。今の時代に合った浅草の和装文化を盛り上げるべく、活躍中(撮影/写真部・加藤夏子)

 浅草で創業100年を超える和装履物専門店・辻屋本店の4代目、富田里枝さんが、浅草で和装を楽しむ術をまとめた新著『浅草でそろう江戸着物』。富田さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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「浅草は全国的に有名な街ですが、浅草っ子にはシャイで照れ屋な人が多いんです。初めてきた人にはぶっきらぼうと思われたり、誤解されてしまうのが、つねづねもったいないと思っていました」

 そう語る富田里枝さんは、和装履物専門店・辻屋本店の4代目。東京・浅草に生まれ育ち、結婚後10年ほど地方で暮らした。浅草に戻って、東日本大震災直後の2011年に店を継ぐことになったのは、予想外の出来事だったという。

「浅草に戻ってきたとき、自分でも驚くほど、体中のあらゆる細胞がホッと安心するような感覚になったのを覚えています。浅草は町会や商店街ごとの活動を基に、一年を通して毎月のように祭事や催しがある街です。落語の登場人物のような旦那衆やご隠居がいて、東京では珍しくなった濃いコミュニティーが残っています」

 観光地でもある浅草の店は奥が深い。土産物が並ぶ店には、役者や芸人、芸者衆が求める本格的な品物も置かれている。

 本書では、信頼できるリサイクルショップから、自分で誂えることも可能な小物のお店、名高い専門店まで、浅草の24軒とその店主が紹介されている。毎日、和装でお店に立つ富田さんが太鼓判を押す店の品物が、人気イラストレーター・平野恵理子さんの精緻な筆で描かれ、眺めているだけでも楽しい。

「オリジナルの小物を誂えたり、和装の楽しみである自分好みの品をリーズナブルにそろえられるのも、浅草の魅力だと思います」

 富田さんの店には、鼻緒をすげる職人がいて、修理も受け付けている。その人の足に合わせて調整するので、履きやすく、痛くならない。

「草履や下駄は痛いものだ、と思いこんでいるお客さまが喜んでくださるとうれしいですね。浅草は長く通ってくださるお客さまが多いので、今日、明日儲かれば良いという商売では続きません。店を継続させたいのならば1年後、5年後、10年後を考えて、嘘の商品、不当な値段では売れない。良いものを適正な価格で売っているのが、浅草なんです」

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