会計士の高梨さんは、実家の空き家化に悩んでいた。店長を務める蛭田さんは、社会とつながりたいと思いながら、子育て中のためにフルタイムの仕事が難しかった。そんな各人の悩みや希望、スキルのプラスマイナスを調整しながら、全体をうまくかみあわせた運営は、投資家を頂点とするピラミッド型ではなく、メンバーが対等な関係で仕組みを回す円卓構造だ。

 そこには、マイナスをプラスに転換する工夫がある。たとえば営業時間の限定は、フルタイム営業が難しかったからだが、時間限定によって、人件費や光熱費などの固定費は最小限に抑えられ、メンバーは本業を維持しながら各自のペースで参加できる。また、空き家への出店なら、初期費用も絞り込める。

 出店には地域への波及効果もあった。店が野菜を仕入れる近くの農家では、来訪者の増加を背景に、農と音楽のフェスティバルを毎年開催するように。そこから、新たな近隣コミュニティーの動きも生まれている。

 岩崎さんは三浦半島の突端の町、三崎でも、木造の空き店舗を編集者のミネシンゴさんに仲介。ミネさんは「本と屯」というまちの図書室を開き、三浦リバイバルに一役買っている。

「三浦では近隣の人と、無目的の飲み会もよく開きます。ここには力が抜けた楽しさがあって、それこそが土地の肌合い」

 便利さではなく、土地の肌合いに焦点をあてたことで、コミュニティーの課題は反転したのだ。(ジャーナリスト・清野由美)

AERA 2019年1月14日号