そんな逆張りで考えてみると──。藻谷さんがもっと評価されてよい地域として挙げてくれたのが、千葉県中南部の外房地域だ。

 今回、編集部で年少(0~14歳)、生産年齢(15~64歳)、老年人口の65~74歳と75歳以上の四つの区分の人口を、各市区ごとに棒グラフにした。市区の規模により縦軸のスケールは異なるが、このグラフで世代ごとの人口のおおよそのバランスがわかる。外房地域の千葉県勝浦市の場合、グラフのような形になる。東京都心の区などと見比べてみると、世代間の人口バランスが比較的いい。時間軸を横軸と考えて、この山が時間とともに形を変えながら右に移動することを考えてみてほしい。急激な人口の増加は、10年後、20年後のリスクにつながる。人口バランスの安定は、持続可能な町づくりの条件の一つと考えられる。

 東京から特急で1時間半の勝浦市を訪ねた。太平洋に面し、背後には丘が連なる。丘の上にはゴルフ場があり、周囲の高級住宅街では熟年夫婦が大型犬と散歩している。海沿いに下りると、釣り道具を携えた人が歩き、漁港では屈強な男たちが魚をトラックに積み込んでいる。

 気候もいい。勝浦市は気象庁の観測史上、過去一度も猛暑日(35度以上)になったことがなく、冬でも滅多に雪が降らない。避暑地であり避寒地なのだ。国際武道大学があるので学生向けの賃貸物件の供給もあり、アパートを借りて週末を海のそばで過ごしに首都圏から来る人もいる。勝浦市役所企画課地域活力推進係の篠宮寛敬係長はこう言う。

「いまのところは週末だけ過ごし、退職したら移住するという人もいます。2地域居住はこれからは無視できないと思います」

 勝浦はリアス式海岸で海と山が近く、平地が少ない。企業誘致の際にはそれがネックになった一方、自営業者の生き残りにもつながった。

「立地条件が良い場所での広い土地の確保は難しく、出店のハードルが高いため大規模販売店の数は少ない。そのことで商店街の自営業者が存続できたという一面もあります」

 幸か不幸か地理的な条件で大資本が入りづらく、開発が進みすぎなかった。勝浦生まれの篠宮係長は、勝浦の特徴をこう表現する。

「気候は暑すぎず寒すぎず、海のものも山のものもおいしい。魚は新鮮で都心に比べると安い。自然の恵みを存分に受けられる環境があって、1時間半で都心部にアクセスできる利便性もあります」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年1月14日号より抜粋