急に気持ちがポジティブに変化した。冷静になり、跳びやすい硬さになるよう靴をテープで補強。すべての準備が整った。フリーではスタートのポーズをとると、ショートとは一転、落ち着いて靴に話しかけた。

「今までありがとう、今日もお願いします」

 集中して滑り始めると、冒頭で2本のトリプルアクセルを成功。地響きのような歓声が起きた。後半に一つミスはあったが、最後までパワーと美しさの共存する演技だった。フリーの得点は155.01点で、国際大会での自己ベストを上回るハイスコア。総合223.76点で首位に立つと、安堵の表情を見せた。

 その後、最終滑走の坂本花織(18)がショート、フリーを通じてパーフェクトの好演技を見せて初優勝。紀平にとって、シニアデビューでの全日本女王とはならなかったが、笑顔で語った。

「最高の演技ができて、不安を乗り越える良い経験ができました。靴にも頑張ってもらったので、ありがとうの気持ちです」

(ライター・野口美恵)

AERA 2019年1月14日号