紀平梨花(左)はフリーの後「集中のやり方がつかめてきたと思います」と語った。紀平と優勝した坂本花織(中)、3位の宮原知子(右)の3人が世界選手権代表に選ばれた (c)朝日新聞社
紀平梨花(左)はフリーの後「集中のやり方がつかめてきたと思います」と語った。紀平と優勝した坂本花織(中)、3位の宮原知子(右)の3人が世界選手権代表に選ばれた (c)朝日新聞社

 昨年末開催されたフィギュアスケートの日本一を決める大会、全日本選手権。女子は注目の紀平梨花がショートで出遅れたが、フリーで巻き返した。強い気持ちでトリプルアクセル2本を成功。その心の動きを追った。

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 女子の主役は、昨年12月初めのグランプリ(GP)ファイナルで優勝し、世界一となった紀平梨花(16)のはずだった。

 だが、紀平には、初めて注目を浴びてから迎える「日本一決定戦」という重圧がのしかかっていた。加えて、9月から使ってきたスケート靴が柔らかくなっている不安も抱えていた。

「GPファイナルでもギリギリの柔らかさだったけれど、そのあと新しい靴に替える時間がありませんでした」

 靴の足首部分の革が柔らかく、ジャンプを跳ぼうとして体重をかけるとグニャッと曲がってしまう。公式練習では、靴の足首部分にテープを巻いて補強し、適度な硬さを模索した。

 しかし21日のショート直前、過度の緊張から冷静な判断を欠いてしまった。まず、感触を柔らかくするためのジェルパッドを足首に巻いた。さらに6分間練習が終わったあと、本番直前にまたテープを巻き直して、慣れない硬さに変えてしまった。

 スタートのポーズをとった瞬間に、感触が悪いことに気づく。

「ものすごいダメな失敗をしてしまった、と思いました」

靴も心も整わないまま演技をスタートし、トリプルアクセルは転倒、続く連続ジャンプでもミスをし、68.75点でまさかの5位発進となった。

「すごく不安があったまま演技してしまいました。フリーに向けて何かを変えないと」

 何とかして気持ちを強気に持っていきたいが、不安は大きくなるばかり。フリーの23日は、公式練習から本番までの間は、ホテルでいったん昼寝をする予定だったが寝付けなかった。

 本番1時間前に会場入りすると、頭をフル回転させて自分の弱さと向き合った。

「この不安に勝てなかったら、もっと大きな大会では絶対に勝てない。ここでミスしたらGPファイナルで1位をとれた選手じゃない。これだけ不安なのは、頑張りたい気持ちが強いからこそ。頑張ろうと思う裏返しだ」

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