ニューヨーク市内で選ばれたのは、マンハッタンからイーストリバーをはさんだ場所にあるロングアイランドシティー地区。世界の金融の中心部であるウォール街からも近い場所だ。

 そしてワシントンそばのバージニア州アーリントン。冒頭で紹介した、米国の政治の中枢部から至近の場所だった。

「バージニアにとっての大きな勝利だ。アマゾンが、この州が持つすばらしい資産を理解してくれたことを誇りに思う」

 バージニア州知事のラルフ・ノーサムは手放しの喜びようだった。雇用だけでなく、アマゾンは平均年収が当初計画の1.5倍、15万ドルにまで達すると明かしたからだ。もともと豊かだった地域がさらに富むことを約束する内容だった。

 しらけたのは、置き去りにされた都市だった。長い過程を経て選ばれたのは、全米有数の都市としてだれもが思いつく、著名な街だったからだ。

 アマゾン創業者で最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾスは、「この二つの場所は、ワールドクラスの人材を集められる」と、2都市を選んだ理由を説明した。

 アマゾンは選考にあたって、成長を支える質の高いエンジニアを大勢確保できることを重視すると、もともと公表していた。たしかに、ニューヨークは世界から良質な人材が集まる場所であり、近年はITのベンチャー企業が多く集積している。ワシントン近郊は、米国の防衛産業の企業が軒並みオフィスを構え、政治を目指す人材が多いだけでなく、エンジニアの層が厚いことで知られる地域だ。

 しかし、それは米国の雇用事情に詳しい専門家ならだれもが知っている。米アトランティック誌は「世界で最も賢い会社が本当に13カ月もかける必要があったのか」と疑問を投げかけた。

 しかも、1年以上にわたる誘致合戦をへて、アマゾン側が得たものは大きかった。進出と引き換えに、ニューヨークでは自治体側が計15億2500万ドル分の優遇措置を提供。バージニア州でも同様に5億7300万ドル分の巨額の優遇が約束された。

 放っておいても、どの企業も進出を目指すような場所にもかかわらず、自治体による争奪戦を引き起こしたことで、優遇措置の規模が大きく膨れあがった形だ。前出のアトランティック誌はこう評した。

「アマゾンの第2本社を巡る壮大な見せ物は、恥ずべきことであるだけでなく、法律で禁じるべきだ」

(文中敬称略)(朝日新聞記者・尾形聡彦)

AERA 2018年12月31日号-2019年1月7日合併号より抜粋