英語版の出し方も、村上が進出した30年前とは違い、多様になってきている。独立系出版社で良質な出版をするところが増え、部数が少なくてもそうした版元で継続的に刊行する意義もあるからだ。

 言い換えれば、「その作家のヴォイス」に合った版元、翻訳者といかに組んでいけるかが、重要になっている。村上でさえ2冊目は伸び悩み、「世界のHaruki」になるまでには時間がかかった。辛島さんは言う。

「『海外で読まれるための方程式』はないと思います。僕の限られた経験ですが、海外でも読まれることを意識して書かれた作品は、中途半端になりがち。翻訳文学の読み手は洗練された読者が多いので、英語で書かれた文学で読めないものを求めているのでしょう。独特なヴォイスを持つ作家のほうが、少なくともアメリカでは支持を得やすい、ということは言えると思います」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2018年12月31日号-2019年1月7日合併号