大学の医局事情に詳しい医療ガバナンス研究所の上昌広理事長(50)は、“ブラック企業”とも言える長時間労働自体が、現代には通用しないとみる。

「多くの大学病院は医師を長時間働かせ、いまだに診療科を総合的に維持、経営面では赤字です。このシステムは、完全に時代遅れ。百貨店が経営不振に陥り、専門店がにぎわっているように、医療も専門性で選ぶ時代になりました。いま成功しているのは、診療科を絞った専門病院です。長時間働かせ疲弊させるのではなく、医師の育成に力を入れている。技術レベルでみても患者数でみても、大学病院は専門病院に大きく水をあけられています」

 不適切入試やそれを巡る大学側の「言い訳」。こんな“非常識”が通用するのは、「医局独特の体質もある」と上さんは言う。

「名門医学部の多くは、学生時代から同僚も教員もずっと同じメンツで閉鎖的。仲間うちの常識が世の中に通用すると勘違いしています」

 入試差別について、私立大学なのだから合格基準は独自の判断でいいという擁護論もあった。だが、これも“内輪の論理”だと前出の宋さんは切り捨てる。

「首都圏など医学部における私大の割合がとても多い地域で、各大学が『独自』の選抜をしては地域における医師供給への影響が大きいです。患者さんからみて、かかりつけの病院が雇用側の都合だけで選抜された属性の医師ばかりになることは果たして利益でしょうか」

 人の命を扱う医療の世界で、時代錯誤や差別容認があっていいはずがない。(編集部・作田裕史、澤志保、川口穣)

AERA 2018年12月31日-2019年1月7日合併号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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