暴露本の出版数日後、マティス長官の辞任説を伝える報道が一斉に始まった。ニューヨーク・タイムズは、「大人と評価されるマティス氏と比較されることに、大統領はうんざりし、嫌気がさしている」などと報じ、両者の関係悪化の始まりを伝えていた。

「正直に言うと、彼は民主党員のようだ。良い人間だし、われわれはうまくやっているが、彼は去るかもしれない」

 トランプ大統領本人も10月14日、録画インタビューが放送されたテレビ番組の中で、マティス長官の辞任の可能性に触れていた。ロイター通信によると、大統領が公の場で、マティス長官に対する否定的な発言をするのは初めてだったという。

 海兵隊の退役大将として国防長官に就任したマティス氏は、「マッドドッグ」の由来にもなった戦場での不敗神話を誇る将軍中の将軍だが、一方で、戦闘はあらゆる手段を尽くした後の選択と考える平和主義者、国際協調主義者でもある。歴史書や戦略書などの愛読家で、結婚歴もなく、子どももいないことから「戦う修道士(Warrior Monk)」とも呼ばれている。多くを語らない寡黙さと信念を貫き通すストイックさが、身長175センチの体に凝縮された小さな巨人だ。

 何から何まで正反対だからこそ、トランプ大統領の暴走を食い止める強力な影響力となってきた。マティス長官の退場は、大統領を止められる人間が政権にいなくなることを意味する。辞職願の書簡の中で、マティス長官がトランプ大統領に表明した最後の訴えが、国際社会の懸念を代弁していた。

「米国の力は、唯一無二かつ包括的な同盟やパートナーシップの仕組みと直結しており、切り離せないというのが私の信念の中核にある。同盟国を尊重し、強い同盟関係を維持しなければ、米国の国益を守ることも、自由世界に不可欠な国としての役割を果たすこともできない」

(アエラ編集部・山本大輔)

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