「われわれは長年、シリアで戦い、私の政権下でIS(イスラム国)に勝利、完全に打倒した。奪われた土地も取り戻した。われわれの軍が帰国する時が来た」

 内戦状態にあるシリアからの米軍撤退だ。報道によると、政権はシリアに展開する米兵2千人の完全撤退を検討しており、完了するには最大約100日を要するという。この方針に強く反対していたマティス国防長官らを振り切って、トランプ大統領が独断で決めたと言われている。

 ただ、シリア撤退をめぐる対立は、2人の関係が終末期にあった象徴の一つでしかない。12月4日、マティス長官は、国防総省が求めた20年度の国家安全保障予算額を削減しようと検討していたトランプ大統領に、考えを改めるよう強く迫っている。10月15日には、貿易をめぐり中国と対立するトランプ政権にあって、「両国関係を生産的に進めるやり方を見いだす必要がある」と記者団に話し、大統領のやり方に苦言を呈している。トランプ大統領が北朝鮮への軍事報復をにおわすようなツイートを繰り返していた時も、関係各国やメディアに対し、「外交による解決はなくなっていない」などと火消しに躍起になった。

 政権内でも、国際協調を軽視するトランプ大統領の政策に懸念を抱く閣僚や政権幹部の相談役となりながら、必要ならば大統領に直接、厳しい言葉を突きつけて、暴走を食い止める最後の防波堤として、政権の安定剤となってきた。100%の忠誠を求めるトランプ大統領が、米国第一主義とは正反対の「グローバリスト」と批判しながらも、マティス長官をクビにしなかったのは、偉大な影響力を尊敬していたからだ。

 それが一転、マティス長官の辞任説が流れ出したのが9月11日、政権内部の異常な混乱ぶりを書いた暴露本『FEAR(訳書名・恐怖の男)』が出版されてからだった。「大統領の理解力は小学5年生レベル」などと言ったとされるマティス長官の発言を含め、米国の安全保障やインテリジェンスに直結する国際協調の重要性を理解しない大統領への深刻な懸念が、多くの閣僚らの生の言葉として記されている。

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暴露本の出版数日後、一斉に報道されたのは…