──光文社文庫では荻原浩『神様からひと言』を、時間をかけて売り伸ばしたとか。

小口:新刊だけではなく、既刊のいい本を長く売るのが文庫のあるべき姿だと私は思っています。『神様からひと言』は、販売・宣伝関係が連携して帯や新聞宣伝のスケジュールを考え、目標部数を設定して展開していきました。口コミで売れるものは強いんです。今、小杉健治さんの『父からの手紙』が同じような形でどんどん大きくなって、50万部を超えています。

──版元から仕掛けて?

小口:書店さんの声を吸い上げつつ、こちらからも押していく感じでしょうか。

吉良(角川文庫):角川文庫では伊岡瞬さんの『代償』というミステリーが、社内の仕掛けもあって、40万部を超える大ヒットになりました。書店員さんの支持もあったんですけど、最初に火がついたのは会社の営業部門なんです。有志を募って、文庫増売のための「文増チーム」を作りました。どの本を売りたいかを話し合いで決めて、本屋さんに働きかけたところ、少しずつ広がり、既刊本の売り伸ばしとしては近年一番の成功例になりました。

長田:朝日文庫では今年の7月に出した山里亮太さんの『天才はあきらめた』が累計13万部になりました。山里さんが仕事に行く先々で書店巡りをしてくださるんです。地場の小さな書店さんにも足を運んで、本にサインする。その様子をSNSで発信すると、読者、ファン、書店にも届く。それが売り上げに大きく影響しているようです。

──文庫ならではの今後の工夫や展開はいかがですか?

吉良:小口さんがおっしゃった通りで、既刊本を大事にして、長く読めるようにしたいですね。角川文庫の新刊と既刊本の売り上げは、3対7ぐらいで既刊本が多いんです。今年、創刊70周年を迎えましたから、累計点数は約2万点になり、もう入手できないものもたくさんあります。でも、今後の新刊については、品切れをなくそうとしています。通常の増刷は千部くらいからですが、1冊でも重版できる体制を2020年に向けてつくっています。今は100部から重版しています。文庫は紙の本の最終形です。膨大なアーカイブから自分に合うものを選んでもらいたいと願っています。

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