――車谷さんは1980年に三井銀行(現・三井住友銀行)に入行。経営企画や投資銀行の業務に携わってきた。バブル崩壊後の不良債権処理や住友銀行(当時)との合併に尽力し、11年の東日本大震災では経営難に陥っていた東京電力の支援の枠組み作りをしたことで知られている。

車谷:私は銀行の企画担当でした。債務不履行を防ぐために、東電を救済しようとしていると見られることもあり、厳しい意見も受けました。しかし、あのときに支援の仕組みを作らなければ、電力供給が止まる可能性がありました。目の前に問題解決すべきものが来たら、全力でやります。今回の東芝の話も、財界の友人から「部下も連れず、たった一人でそんな恐ろしい仕事をよく受けますね」とは言われましたが、望んでくれる人がいて、かつ、そこに社会的意義があるなら、逃げない。天命かと。

 仕事を始める上で私が一番心配していたのは、組織のサウンドネス(健全性)でした。優秀な人材が合理的な判断のもとに動いているのか、それとも、上司の顔色をうかがうポリティカルな組織なのか。私は会長就任直後から、ほぼ全ての工場と支社に足を運びました。明らかに後者ではありません。東芝の従業員は私が生きてきたなかで最もピュアで、すばらしいエンジニアの集団でした。なぜこんな組織で不正会計が起こったのか。明らかにマネジメントの問題です。縦のラインの意識が強すぎる人がトップになると、ガバナンスに問題が生じます。横のラインも作る若いリーダーを作っていかなければなりません。

――東芝は6月、原発事業の失敗で抱えた巨額の損失が原因で、ここ数年、東芝の稼ぎ頭だった半導体子会社「東芝メモリ」を米投資ファンドが主導する日米韓連合に約2兆円で売却した。

車谷:再生のために必要なのは「負の遺産の一掃」と「事業の選択と集中」です。半導体メモリー事業の売却でキャッシュが入って30%を超える安定した自己資本比率になり、無借金経営も実現しました。この土台の上に、外部要因に左右されず、収益性の高いビジネスを作っていきます。ヘビーキャピタルからライトキャピタルへの転換が必要です。ネット企業のマージン(利益率)が30%、40%あるのに対し、製造業は資本コストをかけ過ぎていて数%です。デジタル時代へ一気に舵を切り、われわれも収益性の高い会社に変えていかなければなりません。

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