ミュージアムの総面積は約400平方メートル。二つのギャラリーのほか、ミニシアター、ライブラリー、サロン、ミュージアムショップなどがある(撮影/植田真紗美)
ミュージアムの総面積は約400平方メートル。二つのギャラリーのほか、ミニシアター、ライブラリー、サロン、ミュージアムショップなどがある(撮影/植田真紗美)

 アーティストの森村泰昌さんが古い景観が残る大阪・北加賀屋に自身初となる個人美術館を開いた。造船所跡地で知られるこの土地をどんな思いで選んだのか。

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 高度成長期に主流だったカラフルなトタン屋根の2階建て。かつては家具会社の工場やショールーム、はたまた串カツ屋などとして使われていた建物だという。今は屋根の色もすっかりあせ、空き家としてひっそりと余生を送っているかのように見えるその建物が、このたび内部から息を吹き返すことになった。

 細いネクタイ姿の植木等が踊っていてもおかしくなさそうな、いかにも昭和な事業所のエントランスを抜けて階段を上ると、明るい今ふうの二つの展示空間やミュージアムショップなどが広がる。

 ここは大阪市の南端、北加賀屋(住之江区)で、この11月にオープンしたモリムラ@ミュージアム。名画のなかの登場人物に扮したセルフポートレート作品などで知られるアーティスト森村泰昌さん(67)の、自身初の個人美術館となる。

 こけら落としの開館記念展は、1980年代をテーマにした「君は『菫色(すみれいろ)のモナムール、其の他』を見たか? 森村泰昌 もうひとつの1980年代」。86年、大阪のギャラリーで開かれた森村さんの展覧会が再現され、初めて名画をまねてゴッホに扮した「肖像<ゴッホ>(ベルギー版)」など7点が、三十数年の時を超えて一堂に会した。

 美術館のオープン直前、それらの作品が館内に運び込まれると、元家具店のレトロな空間は、すっかり美術館の顔に。独特な森村作品をもり立てる“箱”として、立派に仕事をし始めた。

 例えばミュージアムショップでは、森村さんの実家である大阪・鶴橋のお茶屋で使われていた木製の茶箱がテーブル代わり。またあちこちに使われている昭和ふうの古い照明器具や、家具店時代のゴツい業務用エレベーターなどが、まるで作品のように、美術館に馴染んでいる。

 それにしてもなぜ森村さんは、自身初の美術館の場所に、この北加賀屋を選んだのか。

 お答えいただく前に、まずは北加賀屋についておさらいしてみたい。北加賀屋駅があるのは、大阪メトロ四つ橋線で西梅田から9駅目。近くを流れる木津川河口には、経済産業省の近代化産業遺産群の一つに認定された「名村造船所跡」があることでも知られる。

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