キム・インソク「夕立」(2018年)の前で、ガイドツアーの説明に耳を傾ける参加者たち。キム・インソクは「功勲芸術家」の称号をもつ実力派(217×433cm)(撮影/木村尚貴)
キム・インソク「夕立」(2018年)の前で、ガイドツアーの説明に耳を傾ける参加者たち。キム・インソクは「功勲芸術家」の称号をもつ実力派(217×433cm)(撮影/木村尚貴)
「若き嵐の兵士たち」(2016年) 工房「万寿台創作社」に所属するユン・ゴン、ワン・グァングク、ナム・ソンイル、チョン・ビョル、キム・ヒョンウク、パク・イルグァン、リム・ジュソンの7人の手による(212×524cm)(光州ビエンナーレ財団提供)
「若き嵐の兵士たち」(2016年) 工房「万寿台創作社」に所属するユン・ゴン、ワン・グァングク、ナム・ソンイル、チョン・ビョル、キム・ヒョンウク、パク・イルグァン、リム・ジュソンの7人の手による(212×524cm)(光州ビエンナーレ財団提供)

 日本はもちろん、韓国でもなかなかお目にかかれない北朝鮮絵画(朝鮮画)が、11月上旬まで開かれていたアジア最大級の国際芸術祭「光州ビエンナーレ」に22点出品された。心をつかんだのは、日常の瞬間を切り取った作品だった。

【その他の作品はこちら】

*  *  *

 北朝鮮の第一線の画家が集団で制作する「集体画」は、労働者らを写実的に表現する「社会主義リアリズム」として描かれることが多い。指導者級の人物の死去や、ダムなど巨大インフラの完成を記録する役割もある。2~7人が集まり、2メートル級の大作を描く。かなりの体力仕事で、必ず美女やカップルが描かれるという人間くさい「お約束」も。

 こうした作品は、北朝鮮のプロパガンダ(政治宣伝)と結びついている面もあり、まとまった形で市民の目に触れることはなかった。今回、光州(クァンジュ)ビエンナーレに出品された集体画6点も、人物がかなりふっくらしていたり、過酷な労働を喜んで受け入れているように見えたり、現実と異なるような表現も見られる。

 多くの韓国人の心をつかんだのは、日常生活を描いた作品のほうではなかったか。

 たとえば、主人公の女性が顔を上げ、雨があがるのを待つ「夕立」。集団制作でなく、1人の画家によって描かれた。中央の女性は未来を見つめているとされ、作者の娘をモデルにした女性も画中に登場している。朝鮮戦争による離散家族の再会を描いた別の作品には「深い感動を覚えた」(男性教員)という声も聞いた。

 いずれも明暗が明確で立体的に描かれるため、油絵と見まがうが、実は日本画に近い。にかわで溶いた顔料で和紙に描く。展示を企画した米ジョージタウン大学の文凡綱(ムンボム ガン)教授は「これこそが、朝鮮画の特徴。日本画のように筆で『線』を表すのでなく、『面』を表しており、過去72年間、北朝鮮が独自に開発してきた表現方法です」と話す。

 展示にあたっては、北朝鮮に直近8年で9度渡航した文教授が出品交渉を重ねた。

 芸術祭の実務を担う光州ビエンナーレ財団の金宣廷(キムソンジョン)代表理事は言う。

次のページ