──香取さんは最初に台本を読んだときどう思われました?

香取:本を読んだ段階ではよくわからなかったです。稽古で初めて「これ俺だったんだ!」っていうのが結構ありました(笑)。10役くらいやるんですけど、セリフがない役もあって。

三谷:いわゆるアンサンブル(その他大勢の役)ですよね。誰かがメインの時は他の人はバックダンサーやコーラスをする。今回はそういう「全員野球」でやろうと思っていたんです。

──香取さんがアンサンブルをやるって衝撃的です。

三谷:実は香取さんにオファーするのは勇気がいりました。でもそれ以上に、僕は早く香取さんと仕事をしたかった。新しい環境で新しい仕事を始めた彼と、また何かやりたかった。その思いを表明したかった、彼に対しても、世間に対しても。僕は役者・香取慎吾も好きだけど、香取慎吾という人間そのものが好き。だから何でもよかった。一番早かったのがこの舞台だったんです。一緒に仕事できれば、彼の絵のモデルでもよかった。オファーがあったらきっとやってました。

香取:すみません、描きたい気持ちになったら言いますね(笑)。いや、本当に嬉しかったです。三谷さんとは一つのものをやらせていただいてる最中から「次はこんなことをやろう」っていうのがずっと続いていて。でも自分が新しい道を歩むことになったときに、先が見えない状況にもなって。気づいたら自分の中に三谷さんとの“次”が一つもなかった。ここで途切れちゃうのかなって。そう思っていたら声をかけてくださった。

三谷:で、やってみてどうですか? こんなはずじゃなかったみたいな感じはない? 宮澤エマさんの後ろで踊ってる香取さんや中井貴一さんを見てると、どんな気持ちなんだろうって、ふと思う(笑)。

香取:僕は誰かの後ろで踊ることもずっと経験してきてますから。なにより初ミュージカルの中井貴一さんが目の前で、フォーメーションチェンジの動線がうまくいかなくて「すまん!」とか言いながら踊ってるわけですよ(笑)。自分のことよりそっちが気になる。

三谷:強烈ですよね。

香取:貴一さんと2人でステージに出ていって椅子をはけたりもしますから。袖と袖でアイコンタクトを取って「今ですね!」ってタイミングを合わせて。

三谷:今回はセット転換も出演者がやりますからね。しかも客席からはそれが中井さんと香取さんだとわからない。

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