現在4人の社員と6人の学生アルバイトで、セキュリティー事業と行動認識技術の開発事業の両輪を回す。写真左から2人目が代表の服部。オフィスを移転した北九州市若松区が自身の地元でもある(撮影/江藤大作)
現在4人の社員と6人の学生アルバイトで、セキュリティー事業と行動認識技術の開発事業の両輪を回す。写真左から2人目が代表の服部。オフィスを移転した北九州市若松区が自身の地元でもある(撮影/江藤大作)

 九州では福岡市に次ぐ人口を誇る北九州市。ものづくりのまちとして発展してきた同市に今、再び若い力と新しい技術によって繁栄を取り戻そうとしている。

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 北九州の産学官の連携による取り組みのなかで、特に注目されているのがセキュアサイクルだ。代表の服部祐一(31)は九州工業大学卒。大学ではAIを用いた行動認識技術を研究したエンジニアであり、システム開発におけるセキュリティー対策をおこなう目的で17年6月に起業した。セキュリティー対策事業のほか、シニアの見守りシステムなどの開発を進める。

 開発のきっかけは文部科学省が地域科学技術振興施策として公募した「平成28年度地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」に、九州工業大学准教授の井上創造によって研究されているAIを用いた行動認識技術が選ばれたことにある。この技術を事業展開するプロジェクトに、服部の恩師でもある井上から声がかかり、服部は介護施設などで入所者を見守る介護アプリの開発と事業化を目指している。

 行動認識技術とは、センサーなどから得られた情報をもとに、人間の行動を認識し学習する技術だ。

「介護現場ではまだ介護記録を手書きに頼っている状況です。効率が悪く、働く人にとって負担が大きい。行動認識技術を応用してより簡単に記録ができるようになれば、業務時間の短縮や人件費の削減などが期待できると考えている」(服部)

 地域イノベーション・エコシステム形成プログラムとは、産学官がひとつのプロジェクトチームを作り、5年間かけて地域を活性化させるための事業をプロデュースするというものだ。服部が担当する行動認識技術による介護アプリ事業については、九州工業大学の特任教授である相馬功(52)がプロデュースチームの事業プロデューサーを務めるほか、前出のクアンドの下岡も副プロデューサーとして名を連ねる。

「食事や検温など定型的な行動の多い介護や看護現場で行動認識の技術を応用することで、少子高齢化や人材不足の問題を改善する事業が創出できる」と相馬は話す。すでに九州工業大学と民間の介護事業者が連携し、介護施設での実証実験も実施されるなど、事業化に向けた動きは着実に進んでいる。

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