朝日新聞によると、ゴーン容疑者の不正な資金工作が発覚したのは今年3月ごろ、日産自動車内部からの告発だった。3月といえば、ちょうど6月のルノーの株主総会を控え、同社の取締役会が2月15日に開かれた後だった。株主総会では、仏政府が人事刷新を求め、ゴーン容疑者のCEO退任を求めてくるとうわさされていた。それが一転、取締役会ではゴーン容疑者のCEO再任が決定。22年までの4年間の任期が最後になるとみられた。日経新聞は、この再任劇の背景について、「ゴーン氏は仏政府からCEO続投へのゴーサインを引き出すために、3社連合の経営方針などをめぐって大幅な譲歩を迫られたフシがある」と報じている。

 この取締役会翌日の会見でゴーン容疑者は、後継者と目されているティエリー・ボロレ最高執行責任者(COO)が「今後は経営全体に関わる」と述べ、自身の関与は下がると発言。この会見を境に、経営統合や自国経済を念頭においた経営方針を求める仏政府に配慮するような発言が目立つようになった。

 ゴーン容疑者逮捕を受けた今月21日の記者会見でルメール仏経済・財務相が残した言葉が、フランス国内の事件への受け止めを表している。

「(フランスは)法治国家であり、推定無罪の原則を尊重する。現時点でゴーン氏の疑惑を裏付ける証拠を得ていない」

 前日の20日に開かれたルノーの臨時取締役会で、ゴーン容疑者のCEOと会長職の解任を見送った理由の説明だ。

「少ない証拠で偉大な経営者を追い出すことが許されてもいいのか」(仏フィガロ紙)

「仏国内ではクーデターとの見方が強い」(仏ルモンド紙)

 英ロイターも「容疑が事実なのか、単に主導権を狙ったものなのか、全容把握は困難」とする仏政府高官の話を掲載。「ゴーン氏が進める経営統合を拒む間接的な手法に見える」という仏専門家の見立ても紹介した。

 日産自動車によるクーデター。欧州で広がる陰謀論の背景には3社連合の経営方針をめぐる対立がある。これが事件の背景にある本質の問題だとする見方が欧州では根強い。

 仏政府トップのマクロン大統領はゴーン容疑者が逮捕された直後に、これまで唯一となる公の発言をした。 

「政府は(ルノー)株主であり、企業連合の安定にどう影響が出るか注視したい」

 要を失った3社連合の経営方針をめぐる攻防は、混迷と激しさを増して第2ラウンドに突入した。

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