沖縄の救急医療、搬送時間は東京の半分 「たらい回し」が起きない理由
本土に比べ大きく進んでいる沖縄の救急医療。なぜ本土の救急医療では「搬送先のたらい回し問題」が起きてしまうのか? 日本のERの現状を追った。
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急逝した沖縄県の翁長雄志前知事の告別式を取材するために那覇市を訪れた8月13日のことだ。街の中心部を歩いていて、体調が悪くなり座り込んだ。冷や汗が出てくる。
沖縄まで来て、取材せずに帰るわけにはいくまい。歩き始めてはみたが、再び痛みに襲われる。今度は鮮明な感覚で胸が締め付けられる。少しでも涼しいところへ逃れようとデパートに駆け込み、ソファに座ると、そのまま動けなくなった。
スマホで症状を調べてみた。
「心筋梗塞・狭心症」
(これは、救急車だな)
人生初の119番通報だ。胸が痛み、冷や汗と呼吸苦。ネット情報によると心筋梗塞の症状に酷似していることを告げた。
10分足らずで、女性の救急隊員の声が聞こえた。すでに目を開けられない。救急車に乗ると、すぐに心電図が装着される。
どこに搬送されるのだろう。たらい回しはいやだな。そんなことが脳裏をよぎる。
だが、2キロほど先にある沖縄赤十字病院に運ばれることは、すでに決まっていたようだ。隊員が電話で病院の医師に不整脈があることを告げている。
しばらくすると、緊迫した隊員の声が聞こえた。
「上がってる。上がってるな!」
私はうめきながら尋ねた。
「何が、上がってる?」
「心電図の波形ですよ。心筋梗塞の可能性がありますね」
後でわかることだが、循環器内科の医師が、救急車から送られてくる心電図を見て専門医に招集をかけたという。
救急車はサイレンとともに動き始めた。
「あとどれくらいで着く?」
「あと数分。頑張りましょう」
救急センターに到着した私は全裸にされ、陰毛がジョリジョリと剃られていく。意識は朦朧として羞恥心も消えている。
医師の落ち着いた声がする。
「身元引受人は、だれかいる?」
ただ事ではなさそうだ。
