目を引くのが、送り出し機関が監理団体側に支払うキックバックの条項だ。この文書では業種によって1人あたり800ドルから1500ドル。人気が高い食品加工や機械加工の求人は高く、不人気の建設や縫製などは安い。男性幹部は話す。

「日本への技能実習生が増え、送り出し機関も乱立した。一人でも多くの求人を得ようと、監理団体に激しく営業攻勢をかけており、そうした費用が雪だるま式に増えている」

 監理団体は非営利団体のため、公式にはキックバック等を受け取ることはできない。だが男性幹部は「手渡しが基本。理事長クラスしかこの恩恵にはあずかれない」と舞台裏を明かす。

 複数のベトナムの送り出し機関の関係者にも話を聞いたが、程度の差はあれ、男性幹部が話すような営業実態を認めた。

 他の要素も見えてきた。送り出し機関の関係者は言う。

「手数料が高くなる一番の理由は、地方で実習生を集めるブローカーに支払う費用だ。学校などで就職セミナーのようなものを開いて実習生の募集もするが、学校の先生や、ひどいところだと村長がブローカーになっていることもある」

 別の送り出し機関の営業部長はこうも打ち明ける。

「日本企業が実習生の面接のためベトナムに来ると、こちらでの食事代はもちろん、ホテル代や観光などの費用負担も求められることがある。積み重なった費用が結果として手数料の一部としてベトナムの若者の負担になっていることは問題だ」

 10 月13日、ベトナム中北部のハティン省で在ベトナム日本国大使館後援の技能実習や留学に関するセミナーが開かれた。留学や技能実習で訪日を希望する若者や、送り出し機関関係者ら約240人が参加。彼らを前に桃井竜介・1等書記官が訴えた。

「技能実習生の失踪者数、刑法犯の検挙件数はワースト1位です。ベトナムの若者は夢や希望を抱いて訪日しており、決して最初から犯罪をしようと思って日本に行っているのではなく、犯罪をせざるを得ない状況に追い込まれています。ベトナム、そして日本において、悪徳なブローカー、業者、企業がばっこしており、ベトナムの若者を食い物にしています」

 日本国大使館はネットなどで正しい情報を発信しているが、限界もある。前出のベトナムの送り出し機関の営業部長はこう話す。

「ベトナムはまだまだわいろ社会で、手数料を安くすると自分は本当に日本に行けるのかと、逆に信用されないだろう」

 前出の監理団体幹部は言う。

「入国した実習生からベトナム側で徴収された手数料を確認し、適正価格でなければその送り出し機関とは契約を結ばない。それだけでも技能実習の問題は大幅に解決できます」

(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2018年11月26日号より抜粋